フェーズ6 宇宙への準備
MI6特別格納庫。
赤い非常灯が回転し、床下から唸るようなエンジン音が響き始める。
天井が開き、夜空の星々が姿を現す。
ロケットの外壁には「SIS-Ω ORBITAL STRIKE」と刻まれていた。
それは“地球を救うための賭け”を背負った兵器輸送船だった。
マルコ・サンタナは、兵装ラックの前で、弾薬箱を一つずつ確認する。
重厚な機関銃を肩に担ぎ、ニヤリと笑った。
「ジャングルも地獄だったが……宇宙のほうが燃えるって話だな」
彼の眼光は、まるで戦いを待ち望んでいる獣そのもの。
セリーヌは、冷静にスナイパーライフルを組み上げる。
無重力を想定した特殊スコープを装着し、光学レンズを覗き込む。
「風も揺らぎもない真空……狙撃には理想的な環境ね」
その声は小さく、だが確かな決意を帯びていた。
アレックス・“ライトニング”・カーターは、軽量装甲スーツの起動音がシャープに響く。彼はゴーグルを下ろし、指先で電磁ブレードを鳴らした。
「ゼログラ? 上等。俺にとっちゃ舞台が広がるだけだ」
軽快な口調だが、その瞳は戦場の緊張を隠さない。
アイゼン・ハワードは、静かにジャケットのボタンを留め、黒い手袋をはめる。影が床を這い、彼の背後に吸い込まれるように消える。
「若造ども、はしゃぐのは構わん……ただし、死ぬなよ」
老練な魔族スパイは、冷ややかな声で仲間に釘を刺した。
ジャスパー
そして一人だけ、明らかに浮き足立っていた。
宇宙服のジッパーを噛みながら必死に閉めようとし、靴を左右逆に履いて転びかける。
「マジで行くのかよ!? お前らは戦闘狂だからいいけどな!?
俺はただのハッカー! 宇宙にWi-Fiないんだぞ!? 死ぬならせめてLANケーブルに絡まって死にたいんだよぉ!」
彼の悲鳴を背に、チームは次々とロケットへ搭乗していく。
マルコが大笑いしながら背中を叩く。
「心配すんな、死んでもデータはクラウドに残る!」
「クラウドで俺の葬式あげんなあああ!!!」
ロケット発射のカウントダウンが始まる。
10… 9… 8…
格納庫全体が振動し、床に置かれた工具が跳ねる。
7… 6… 5…
仲間たちは座席に固定され、ヘルメットのバイザーを下ろす。
ジャスパーだけはガタガタ震えながらベルトを締め直し、必死に呻く。
「はぁ……俺の心臓、カウントダウンより速く爆発する……」
4… 3… 2…
轟音と共にロケット下部から炎が噴き上がり、空気が焦げる。
金属の壁が揺れ、鼓膜が破れそうな振動が全員を包み込む。
1… 発射!
巨大な衝撃が体を押し潰す。
マルコは雄叫びを上げ、セリーヌは無言で視線を前に固定し、アレックスは笑いをこらえきれずに叫ぶ。
「最高のジェットコースターだぜ!!」
アイゼンはただ静かに目を閉じ、影のように身を委ねる。
そしてジャスパーの絶叫。
「いやああああああああああああ!!!」
輸送ロケットは炎をまとい、夜空を突き抜けた。
青い地球が遠ざかり、眼前に広がるのは闇と星の世界。
次の戦場は、アリシアが待つ 宇宙ステーション だった。




