フェーズ4 南米前線基地制圧
爆音と赤光が交錯する研究施設の中枢。
ゼログラ空間で暴れ狂ったサイキック親衛隊は、ついに追い詰められていた。
「行けぇっ!」
マルコの機関銃が唸り、火線が敵を切り裂く。
アレックスの稲妻の残光が天井から床へ縦横無尽に駆け抜け、幻影兵の首筋を正確に撃ち抜いた。
セリーヌのスナイパーライフルが最後の指揮官を沈黙させると、重苦しい沈黙が訪れる。
「アリシア親衛隊、排除完了」
彼女の冷ややかな声に、誰もが深く息をついた。
ジャスパーが端末を展開し、乱れた回線に指を走らせる。
数秒で複雑な防壁が解体されていき、研究施設の神経網がむき出しになる。
彼は鼻で笑い、端末越しに冷たい視線を投げた。
「やれやれ、国家予算を注ぎ込んだ防壁が、俺の昼休みより短い命とはな。研究者どもは数字の桁だけ膨らませて、脳味噌の容量は増やせなかったらしい」
セリーヌが小さくため息をつく。
「アンタの口の悪さは世界記録モノね」
ジャスパーは肩をすくめ、端末に没頭したまま口角を上げる。
「いいじゃないか。口が悪くても、手は速い。人類はそうやって進歩してきたんだろ?」
その瞬間、地下深部から不気味な振動が走る。
金属壁が裂け、そこから現れたのは――
人と獣と機械が混じり合った異界融合体。
触手のような神経ケーブルをのたうたせ、装甲を突き破りながら基地を食い荒らしてゆく。
「おいおい……スパイ映画ってよりホラー映画に出演した覚えはないんだが」
ジャスパーが悪態を吐き、即座に緊急プログラムを走らせる。
「待てよ……逆に利用できるか?」
融合体が暴れ回るたびに、施設の回線が混線し、アリシアの支配網が乱れる。
「……なるほどな。こいつらの“騒音”で、俺が逆侵入する隙間ができるわけだ!」
電子戦の逆転の糸口を掴んだジャスパーは、狂気じみた笑みを浮かべた。
「化け物、いい仕事してんじゃねぇか。舞台荒らしは嫌いじゃない」
戦場が生態兵器の咆哮に揺れる中、アイゼン・ハワードはゆっくりと歩み出る。
「おぬしらはここで吠えておれ。……儂は、やつの影を追う」
魔族の力を纏い、彼の姿は闇に溶け込む。
警報の赤光が何度も彼を照らすが、そのたびに影がすり抜ける。
まるで壁そのものが彼を通すかのように。
彼の目的はただ一つ。
アリシア・ヴァルデス。
かつての因縁を清算するため、彼女が待つ施設奥深くへと、老練のスパイは消えていった。




