第七話 宿命の対決
俺たちの前に現れたのは、バルドルのかつて親友であり、ライバルであった。
雷の戦士ヴォルグだった。
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名前:ヴォルグ(戦士)
レベル:50
体力:2000
攻撃:700
防御:650
素早さ:195
魔力:20
賢さ:280
運:90
この世界で、妻と娘を殺されたために魔王軍に入った復讐の戦士
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かつて“西のバルドル、東のヴォルグ”と称された、二人の英雄。
共に魔王軍と戦い、共に人々を守り、背中を預け合いながら信じ合っていた戦友だった。
だが
バルドルが突如として魔王軍に寝返った。
それがすべての始まりだった。
次々と町が焼かれ、村が蹂躙され、そして、ついには祖国であったメソポタミア王国が崩壊した。
「……バルドル。久しいな」
雷の剣を握りしめ、ヴォルグが神殿の闇から姿を現した。
「よぉ、ヴォルグ!元気そうじゃねぇか!」
「……お前はいつもそうだな。軽い、軽すぎる」
ヴォルグの声には怒りよりも、深い哀しみが宿っていた。
「お前が裏切ったせいで、どれだけの人間が死んだと思ってる?」
バルドルが眉をしかめる。
「……だって仕方ねぇだろ?俺はただ……」
「仕方ないだと!?」
雷光がヴォルグの体を包み、周囲の空気がビリビリと震えた。
「お前には家族がいなかったから、それで済むのかもしれない…… だが、俺には守りたい家族がいた。妻がいた、娘がいた……!」
その声に、周囲の勇者パーティーの面リスク、マーリン、グレイス 、シスターマリアまでもが沈黙する。
「俺は……魔王軍に寝返ったお前の後始末をするために戦い続けた。 町を破壊されて怒った人間たちが、俺の家族を“裏切り者の身内”として殺したんだ!!」
静寂。
バルドルの瞳に、一瞬だけ迷いがよぎる。
「……それ、お前のせいじゃなくて……人間が悪いんじゃ――」
バキッ!
ヴォルグが怒りに任せて壁を殴り砕く。
「違う!きっかけを作ったのはお前だ!!」
「お前が“バカ”だから、罪の重さもわからんのだろう!」
「バカって言うなよ。……で、今どっちが悪者なの?」
「貴様だッ!!」
それでも、バルドルは銀の斧を構えた。
彼の目に、計算も戦略もなかった。ただ、目の前の敵を倒すという一点の本能だけ。
「なんか難しいことはわからんけど、今は俺は“勇者側”だから、悪い奴をぶっ飛ばす!……それだけだ!」
ヴォルグが雷剣を天高く掲げる。
「ならば、この怒りごと俺の正義で叩き潰すまでだ!!」
バルドルが銀の斧を構える。
「やってやるよ!お前のその雷の剣、バッサリいってやるぜ!」
「こいよ、ヴォルグ!」
轟音と怒声がぶつかり合う。
バルドルが吠えるように叫び、銀の斧を肩に担ぎ上げた。
「貴様を斬ることでしか、俺の怒りは鎮まらない!!」
ヴォルグのサンダーソードが天を裂き、雷が刃に宿る。
バチィィィッッ!!
一歩踏み出した瞬間、空間が歪んだかのように二人の英雄が激突する。
「うおおおおおおおおっ!!」
バルドルの斧が横薙ぎに振るわれ、神殿の柱をかすめて砕く。
しかし、ヴォルグはその斧の軌道を読み切り、瞬時にバックステップ。
「遅い!」
雷光が閃き、サンダーソードの突きがバルドルの胸元に届く――直前、
銀の斧が“受け”に回る。火花が咲いた!
ギィィンッ!!!
「チッ……やはり、バカな力だけはあるな!」
「お前の剣も……ピカピカしてて強そうだなぁ!」
「感想がバカすぎるわ!!」
ヴォルグが跳躍し、上段から雷をまとった斬撃を振り下ろす。
「雷神剣・紫電一閃!!」
神殿の床を貫く電撃。空間が焼け、天井の瓦礫が降る。
しかしそこから飛び出すバルドルの咆哮!
「銀の斧・ゴリ割りッッ!!」
まさかの頭上からフルスイング――!
ヴォルグは剣をクロスして受け止めるが、斧の質量と怪力に押し込まれ膝が崩れた。
「笑っていやがる……!」
「よくわかんねぇ!でも今、めっちゃ楽しいぞぉ!!」
雷と銀が火花を散らす。一撃ごとに神殿が壊れ、振動が地中に響く。
斬っては跳び、叩いては弾き、
ふたりはまるで古代の神々のように戦っていた。
そして、ついにその瞬間が来た。
バルドルがヴォルグの攻撃を受け流し、体を捻って一回転。
「くらえぇぇぇぇ!!」
「銀の斧・極嵐裂波!!」
斧に込めた全力の回転斬り――
ヴォルグのサンダーソードに命中する!
パキィィィィィィィィィンッ!!
雷が弾け、空気が裂けるような音が響いた。
そして……
サンダーソードは、真っ二つに折れていた。
「…………ッ!!」
ヴォルグの瞳に映る、折れた刃。
そして、その向こうで汗だくになってニカッと笑うバルドル。
「うおおおおおっしゃぁぁああああ!!俺、勝った!?勝ったよな!?」
「……………」
ヴォルグがゆっくりと折れた剣を下ろし、背を向けた。
「今日はここで退く。だが誤解するな、バルドル」
ヴォルグが静かに言い放つ。
「俺は、お前を許したわけじゃない。 俺復讐のために生きる。お前にすべてを奪われた俺の魂が、許す日など来るはずがない」
雷のようにヴォルグの足音が神殿を離れていく。
「……俺、やっぱり……悪かったのか」
バルドルのつぶやきに、誰も答えられなかった。