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完結【50万2千PV突破 】運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『カズヤと魔族のおっさんの事件簿:冥界から届いた遺書』

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【最終話】 告白と赦し

サロンに沈む重苦しい空気。アンナの遺体は、まだ床に横たわっている。

カズヤは深く息をつき、静かに口を開いた。


「犯行の裏には、別の協力者がいた……。執務医のクレメンスだ」


侯爵家の一族が驚きの表情を浮かべる。クレメンスは冷徹な医師で、表情ひとつ変えない男。

しかしその目に、今は震えが混じっていた。


「私が……毒を準備した……。アンナに渡したのも、私だ」

クレメンスの声はかすれ、床を見つめながら告白する。

「だが……それだけではない。私は……彼女に恋をしていた」


一瞬、空気が止まる。

「許してくれ……君を愛していた。

君を守るつもりで、でも、結果として……すべてを狂わせてしまった」


クレメンスは膝を折り、アンナに抱きつく。

震える体を押し付けながら、嗚咽まじりに叫ぶ。


「許してくれ! 本当に、君を……愛していたんだ!」


カズヤは静かに見守る。侯爵家の一族は、深い沈黙の中で事態を受け止めた。

アンナの悲劇は終わり、だが愛と忠誠の代償は、誰の胸にも重く残る。


アイゼンハワードは腕を組み、冷静に呟いた。

「愛は、時に人を狂わせる。だが、これで事件は収束した」


サロンに漂う沈黙は、やがて夜の静寂に溶けていった。

冥界からの手紙がもたらした恐怖も、ようやく終わりを告げる。


サロンの空気が少しずつ落ち着きを取り戻す中、カズヤは天井をぼんやり見上げた。

「……あの手紙は、本当に冥界から来たのかもしれませんね」


アイゼンハワードは静かにワインを一口含み、微かに肩をすくめた。

「いや、冥界の手紙は、所詮、人の執念と計略の産物だ。

だが……恐怖と愛情の交差が、ここまで人を狂わせるとは、なかなか見応えがあった」


カズヤは小さく笑い、床に散らばる紙片を見つめる。

「人の心って、ほんとに複雑ですね……。悲しみも、怒りも、愛も……全部入り混じって」


アイゼンは少しだけ視線を外して、窓の外の夜空を眺めた。

「そうだな。だが覚えておけ、カズヤ。

真実が明かされても、心に残る影は消えない。

それでも……生きる者は前に進まねばならんのだ」


カズヤはうなずき、静かに拳を握った。

「……はい、前に進みます。

冥界も、この屋敷も……、今日で少しは安らぐといいですね」


夜の風がカーテンを揺らし、サロンに残る沈黙は、やがて静かな安堵の気配に変わった。


そのとき、月明かりが差し込む窓辺に、微かに揺れる人影があった。

黒い衣の小さな影―


アンナの姿である。


一瞬、床に落ちたままの遺体と交錯するその影は、ゆっくりと消え入り、誰も気づかぬまま夜の闇に溶けた。


冥界の手紙がもたらした恐怖と悲劇は終わった。

だが、人の心に残る影は、幽かなまま、そっとそこにあった。



『カズヤと魔族のおっさんの事件簿:冥界から届いた遺書』






ー完ー



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