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【ランキング12位達成】 累計55万6千PV 運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『カズヤと魔族のおっさんの事件簿:冥界から届いた遺書』

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第2話 呪われた晩餐

重厚なシャンデリアが黄金の光を放ち、長大なテーブルに銀器が整然と並べられている。

その優雅な場に、しかしどこか冷たい緊張が漂っていた。


侯爵家の晩餐会は、かつては名士を招く華やかな場であった。だが今宵集うのは血縁と古き使用人、そして招かれた二人の客人――カズヤとアイゼンハワード。


「……エリザベートの好んだワインですわ」

クラリッサ夫人が囁くように注がれたグラスは、かすかに手の震えで揺れていた。


「母上、その名を軽々しく口にするものではない」

長男リヒャルトが低い声で制した。

しかしその言葉は、むしろ抑えていた思い出を刺激したらしい。


「そういえば彼女の肖像画は……」

マデリンが俯き、誰にともなく呟く。

視線が大広間の壁へ向いた瞬間、使用人の一人が小さく悲鳴をあげた。


そこには確かに、エリザベートの肖像画が掲げられている。

――その額の前に、真新しい白百合が一輪、供えられていた。


「なっ……!」

「誰が、いつ……?」


ざわめきが広がる。

肖像画の周囲には誰も近づいていなかった。鍵も掛けられていたはずだ。

にもかかわらず、そこに白百合は確かに置かれている。


「……冥界の客人も、晩餐に混じりたがっているようだ」

アイゼンハワードがワインを傾け、皮肉めいた笑みを浮かべた。


「馬鹿げたことを言うな!」

当主レオポルト侯爵が卓を叩き、声を張り上げる。

「この手紙も花も、すべては人間の仕業だ。亡霊など存在せん!」


しかし声の強さとは裏腹に、その手は微かに震えていた。

緊張をほぐそうとするかのように、話題はやがて遺産分割や屋敷の行く末へと移っていった。

だが、亡き令嬢の影をまとった言葉は、一層の不協和音を招くだけだった。


晩餐が終わり、ユリアンがグラスを片手に立ち上がった。

「やれやれ、くだらぬ幽霊話に付き合っては酒が不味い。私は先に休ませてもらおう」


薄笑いを浮かべ、青年は自室へと引き上げていった。

彼の足音が階上に消えた後も、大広間の重苦しさは拭えない。


「……カズヤ」

アイゼンハワードが囁くように言う。

「死人の言葉ほど、人の心を縛るものはない。面白くなってきたと思わんか?」


カズヤは眉をひそめ、ワインのグラスを置いた。

「面白がる問題じゃない。今夜、誰かが本当に――」


その瞬間だった。


屋敷全体を震わせるような絶叫が、二階から響き渡った。

食堂にいた全員が凍りつき、次いで慌ただしく立ち上がる。


「ユリアン様のお部屋からです!」

侍女アンナの叫びが恐怖に震えていた。


一同が駆けつけ、扉を叩いたが返事はない。

執事ハインリヒが鍵を開け、扉を押し開けると――


そこにあったのは、血に染まった床と、崩れ落ちるユリアンの姿だった。

その喉元には鋭い刃の跡。窓は内側から施錠され、密室を成していた。


「……冥界の約束が果たされた、というわけか」

アイゼンハワードが低く呟いた。


青ざめた一族の顔を前に、カズヤは思わず背筋に冷たいものを感じた。

幽霊の手紙は、単なる悪戯ではなかった――。

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