第13話 ネオ・クロノス社本社タワー最上階オメガ・スフィア制御室
制御室の中央で、オメガ・スフィアが轟音と共に脈動を始めていた。
空間そのものが歪み、赤黒い光が螺旋を描いて天井を突き破る。
世界各地に出現した異界ゲートの揺らぎがシンクロし、今まさに地球そのものを崩壊させかけていた。
「……これが完成した“ラスト・コア”よ。あなたが守り抜こうとした世界の終焉の姿!」
アリシアが高らかに宣言する。
魔族アイゼン・ハワードは静かに一歩踏み出し、
その背後に仲間たちの奮戦を背負うように、アリシアへ視線を向けた。
「復讐に魂を売った女よ。だが、この世界を地獄に沈めさせはしない」
オメガ・スフィアが赤黒く脈動し、空間そのものを歪ませていた。
吹き荒れる衝撃波の中心で、二人は対峙する。
アリシアの両手の銃は異界の力で赤黒い光を帯び、
アイゼンの肉体には魔力により、漆黒のオーラが迸る。
「アイゼン・ハワード……あなたの命、この手で終わらせる!」
アリシアが叫ぶや否や、銃声が轟いた。
紙一重の攻防
弾丸が空を裂く。
アイゼンは身体をひねり、紙一重でかわした瞬間、漆黒の爪を閃かせる。
しかしアリシアは床を蹴って跳躍。弾丸を撃ち込みながら、宙で身体を回転させる。
――銃弾と魔爪がすれ違う。互いの頬をかすめ、火花と血飛沫が散った。
「遅いわ!」
「……甘い」
アイゼンの声と同時に、床下から黒い魔槍が突き出される。
だがアリシアは足首をひねって回避、魔槍を踏み台にして逆に銃撃を浴びせた。
壁が砕け、制御室の装甲が吹き飛ぶ。
二人の闘いは、一撃ごとに空間を削り、タワーそのものを崩壊させていく。
アリシアの弾丸がアイゼンの肩を撃ち抜いた。
血が飛び散る。しかし老魔族の瞳は揺らがない。
「人を憎み、世界を憎み、それで何を得る……?」
「奪われた者にしかわからない! この復讐が私の生きる意味!」
アイゼンの漆黒の爪が、アリシアの頬を紙一重でかすめる。
アリシアの銃弾が、アイゼンのこめかみをかすめて火花を散らす。
どちらが一歩でも遅れれば即死
そんな命の削り合いが続く。
「終われええぇぇぇッ!!」
アリシアが二丁の銃を交差させ、弾丸を連射する。
赤黒い光弾が奔流となり、部屋を埋め尽くす。
「よし、いくか……」
その目が、獣のように光った。
詠唱が始まる。古代の魔語。圧倒的な魔力が地を揺らす。
「目覚めよ、古き獣よ……
闇よ、我が肉体を喰らい尽くせ。
王の血よ、魔獣の骨よ――
真の姿へと具現せよ……
《魔獣 ライカントロス》!」
「《ベヒモス・コード 第九式──サーベルタイガー顕現》!」
ドォォォォォン!!
黒い稲妻の中から姿を現したのは、
全長5メートルを超える、漆黒のサーベルタイガー。
鋭く湾曲した牙はまさに断罪の刃。
後脚の筋肉がはじけ、地面を一歩踏むごとに衝撃波が走る。
漆黒の獣影が弾丸を切り裂き、突撃する。
衝撃!
弾丸と爪が激突し、制御室は爆音と光で白く染まった。
二人は互いの攻撃を紙一重でかわし続け、
その度に瓦礫が飛び散り、スフィアの暴走は加速していく。
「これで終わりよ、アイゼン!」
アリシアの銃口が心臓を狙う。
だが引き金が引かれる瞬間。
アイゼンはすでに動いていた。
獣の爪が銃を弾き飛ばし、アリシアの額へ迫る。
彼女はかろうじて身を捻り、頬に深い裂傷を負いながら後退した。
二人とも満身創痍。
だが戦いはなお続こうとしていた
その時。
スフィアが暴走を起こし、制御室全体を光の奔流が飲み込む。
仲間たちが制御を必死に試み、アイゼンは魔力をぶつけて暴走を押し止める。
その混乱の中、アリシアは瓦礫の影に消えた。
残されたのは、血に濡れた銃痕と、彼女の残響のような声だけ。
「復讐は……まだ終わらないわ……」




