第8話 スフィア暴走
世界時計が零を刻んだ瞬間
地球の各地で、禍々しい光が走った。
ロンドン・ニューヨーク・東京・カイロ・ベルリン。
要衝に仕掛けられていた「スフィア残滓」が同時に共鳴を開始。
空が裂け、黒い亀裂が都市を覆い、異界の瘴気が吹き出した。
「ゲート反応複数確認! 数は……カウント不能!」
各国の情報機関が絶叫する。
街路灯が弾け飛び、空間がねじれる。
そこから現れたのは、無数の異形の群れ。
甲殻に覆われた獣、翼を広げた怪物、鋼鉄と肉体が融合した兵器。
都市は瞬く間に戦場と化した。
ドバイの砂漠都市。
暴走する異形の群れを前に、レオン・ガルシアが重火器を構える。
「おいでなすったな! 派手にぶっ飛べ、化け物ども!」
肩のロケットランチャーが火を吹き、ビル一棟を埋め尽くすほどの怪物を吹き飛ばす。
だが次の瞬間には二倍の数が押し寄せる。
「チッ……きりがねえ!」
その背後を、風間迅が静かに抜けた。
彼は一言も発さず、ただ刀を抜く。
次の瞬間、刃は風のごとく走り、怪物の首が次々と宙に舞った。
雨のように飛び散る血と破片の中、迅はただ一度、低く呟く。
「……退け。」
その声に背を預け、レオンは再び銃を撃ち込む。
異能と火力の共鳴。
二人の戦いが砂漠の夜を赤く染めた。
ロンドンのMI6本部。
各国のスパイ組織が一堂に会し、情報が交錯していた。
CIA、DGSE、公安調査庁、モサドかつてない国際協力が即座に結ばれる。
だが混乱の渦は情報戦をも飲み込み、通信は刻一刻と遮断されていった。
「世界が……崩壊していく。」
クロエ・ルノワールは冷徹にモニターを見据え、指先で暗号通信を走らせた。
「ラスト・コアは依然アリシアの手中。全てはそこに収束するわ。」
ベルリン市街。
押し寄せる異界兵器の群れを前に、アイゼンは深く目を閉じた。
「……もう、人の力だけでは抑えられん。」
彼の体を黒い紋様が覆い、瞳は魔族の光を帯びる。
次の瞬間、彼の腕から解き放たれたのは純粋な破壊の奔流。
衝撃波が敵の戦列を粉砕し、戦車ほどの巨体すら吹き飛ばす。
「……これが俺の呪われた力だ。だが今は……使わせてもらう!」
街が震え、炎に包まれる。
だが、その破壊をもってしか異界の侵攻を押し留められなかった。
戦いの中、モニターが赤く点滅する。
ジャスパーの声が各地に届いた。
「解析完了! ……くそっ、やっぱりだ!」
「ゲートの共鳴を統制してるのは……“ラスト・コア”だ!」
クロエが凍り付いたように呟く。
「つまり……全てはアリシアの掌の上。」
マクシミリアンの冷笑が闇に響いた。
「ようやく気づいたか。世界はもう“序章”を過ぎた。
真の新秩序は、これから始まるのだよ。」
世界は炎と影に包まれ、崩壊の瀬戸際へと傾いていった。




