第7話 闘うそれぞれの若きエージェント
屋上の死闘 セリーヌ vs アリシア
東京・新宿の摩天楼の屋上。
雨は針のように降り注ぎ、ネオンが滲んでいた。
セリーヌはナイフを握り締め、低く構える。
アリシアは闇に溶けるように立ち、口元に不敵な笑み。
「ここで終わりよ、アリシア!」
「終わり?まだ始まってもいないわ。」
刹那。
二人は閃光のようにぶつかった。
セリーヌのナイフが風を裂き、アリシアの回し蹴りが鉄板を軋ませる。
火花。衝撃。衝突のたびに屋上の照明が砕け、破片が宙を舞った。
アリシアは素手でナイフを受け流し、肘打ちを繰り出す。
セリーヌは血を吐きながらも反撃し、頭突きで距離を詰めた。
「……やっぱり、強い……!」
「……やはり甘いわね。あなたには“憎しみ”が足りない。」
アリシアの声と共に、彼女の膝蹴りがセリーヌの腹をえぐる。
だがセリーヌは踏み止まり、逆にナイフをアリシアの喉元へ突きつけた。
雨粒が二人の顔を伝い落ちる。
一瞬の静寂。
だがアリシアは微笑むだけだった。
「その迷い……それが敗北の理由よ。」
煙幕が弾け、視界が真っ白に覆われる。
セリーヌが咳き込み、再び視界を取り戻したときには、アリシアの姿は影のように消えていた。
「くそっ……まだ逃がすのか!」
拳を屋上に叩きつけるセリーヌの叫びが、雨にかき消されていった。
サーバールームでの死闘 ドクター・マクシミリアンvs ジャスパー
同時刻。
MI6のサーバールームでは、数十台のモニターが赤い警告を点滅させていた。
ジャスパーの指はキーボードを叩きつけるように走る。
だが次々とウイルスコードが侵入し、味方システムは次々と落ちていく。
「はは……無駄だ、若きエージェント。」
スピーカー越しに聞こえる、ドクター・マクシミリアンの冷徹な声。
「君の手元の機材では、我が“量子演算兵器”に勝てはしない。君は小石、私は洪水だ。」
モニターの中でコードが変形し、自己進化してはジャスパーの防御壁を食い破る。
赤いアラートがフロアを照らし、サーバーラックが一つ、二つとショートしていった。
ジャスパーは歯を食いしばり、声を張り上げる。
「小石でも……急所にぶつけりゃ、巨人は倒れるんだよ!」
彼はあえて自分のシステムを一部破壊し、ウイルスを誘い込む。
囮にしたサーバーが爆発的にオーバーヒートし、敵のコードを巻き込んで一時的な空白が生まれた。
「……っ! 今だ!」
ジャスパーは隠していたブラックコードを突き立てる。
モニターに表示されたのは、マクシミリアンの通信網の断片。
その背後に浮かぶ、ネオ・クロノス社の巨大ネットワークの影――。
だがマクシミリアンは余裕の笑みを崩さない。
「少しはやるようだ。だが“情報の海”は無限だ。次は、君が溺れる番だ。」
音声が途切れる。
直後、ジャスパーのディスプレイに新たな黒いコードが溢れ出す。
彼は必死に指を走らせながら、呻いた。
「……やべえ、まだ本気じゃなかったのかよ……!」
その頃、パリの暗い路地。
クロエは一人、冷えた石畳を歩き続けていた。
「……奴らの影は、思った以上に深い。」
彼女の端末に映るのは、アリシアとマクシミリアンを結ぶ暗号通信のログ。
その背後に浮かび上がる、世界規模の陰謀の輪郭。
孤独な諜報員は歩みを止めない。
嵐の前夜、彼女の青い瞳は鋭く光っていた。




