第五話 下水道での闘い
海沿いにぽっかりと口を開けた、海水混じりの下水道の入口。そこに集まるのは、邪教の血の神殿に囚われた村人たちを救うべく集結した反邪神教のレジスタンス「白い薔薇」と、勇者アルベルトのパーティー。
湿気と潮の混ざった悪臭が漂う中、反逆の逆の戦士バルドルが叫んだ。
「俺!閉所恐怖症だから中に入るの無理!だあぁあ!」
「……またかよ」と俺は呆れた。
「目をつぶって数字を数えて入れば大丈夫だよ、バルドル!」
グレイス・オマリーが元気よくアドバイスした。
「あーそうか、その手があったか!」
(いや、目をつぶったら前が見えないだろ……バルドル、やっぱバカすぎる)
「村人、お前、俺と手を繋いで先導してくれ……頼む」
(でかい図体したオッサンが手つなぎ要求とか……泣きそうなのか?)
俺は渋々バルドルの手を取る。汗ばんだ手が震えていた。暗く、狭く、うねる下水道の中へ、俺たちは進んでいく。
「怖い…怖くない…怖い…怖くない…」
バルドルが呪文のように唱える。
「バルドル、数字数えろって」
「う、うん、1、2、3、4、5、6……」
そのときだった。
「空気の流れが変わりました。モンスターです!」
シスターマリアが鋭く叫んだ。
ぬらりとした足音、カサカサとした気味の悪い羽音。
闇の中から這い出てきたのは、全長2メートルはある異形の虫モンスタ!
名前 ゴキジェット
体力 : 1000
攻撃 : 798
防御 : 710
素早さ:1192
この世界でゴキブリより産まれし虫のモンスター。素早いジェットで空を飛び冒険者を襲う。
名前 ゴキボール
体力 : 1000
攻撃 : 894
防御 :1492
素早さ:584
この世界でゴキブリより産まれし虫のモンスター。ボールのように丸まり転がって冒険者を襲う。
「うぎゃああ!なんだこりゃあああ!」
グレイス・オマリーが叫ぶ。
「でかいゴキブリだな……!?」
ナカムラの顔色が蒼白になる。
「ゴキジェットに、ゴキダンゴ!?見た目がリアルすぎるッ!!」
俺は思わず後ずさった。
「ど、どこまで数えてたかわかんなくなっちゃったああああ!!」
バルドルの悲鳴が下水道に響き渡る。
「うるさいわね、バカは黙ってなさい」
黒魔術師マーリンが静かに口を開く。
彼女の足元に闇が広がり、マントがふわりと広がる。その眼が妖しく光る。
「深淵の底より目覚めし黒き龍よ、封ぜられし煉獄の鎖を今、断ち切れ!
闇と炎の契約によりて、我が魔力に応えよ!
呑み込め、焼き尽くせ、全てを灰に!
《黒龍獄炎爆裂》!!!」
轟音が下水道を震わせる。
地面を突き破って黒き龍が召喚される!その咆哮は空を裂き、口から吐かれるは地獄の業火!!
ドォォォォォォン!!!
熱風と衝撃。ゴキジェットとゴキダンゴの虫モンスターはひとたまりもなく、燃え、溶け、黒煙と化す。
「気持ち悪い虫は、駆除完了ですわ」
マーリンが涼しげに言った。
「おい、俺まだ目開けてねぇぞ!戦闘終わったのか!?ねぇ!?」
バルドルが俺の手をギュウッと握る。
「終わった……たぶんな……」
俺は言いながら、震えるバルドルの手を見て思った。
(こいつ、案外ピュアなのかもしれん)
バルドルのでかい手が震えるのが、伝染して俺も震えるのだった。
「ふふふ、虫が出るって言ってたら、まさかの巨大版とはね」
グレイス・オマリーがナイフをくるくる回して笑う。
「今の攻撃音、神殿にも聞こえたでしょう。急ぎましょう」
白い薔薇のリーダーであるナカムラが険しい表情で言う。
パーティー全員のレベルが1上がった。(※ただしマーリンを除く)
俺たちは焼け跡の残る下水道を抜け、いよいよ血の神殿への侵入へと歩を進めるのだった。