第5話 東京・地下研究所
東京の街を覆うネオンの海。その下に、誰も知らぬ闇が潜んでいた。
旧財閥が残した地下研究網。今は異界技術を利用した違法実験の温床となっている。
MI6チームが接触したのは、日本の公安調査庁の一人のエージェントだった。
長身の男。黒い外套の下にスーツを纏い、背には日本刀。
「……風間 迅。公安だ。」
名乗りはそれだけ。
鋭い眼差しに、言葉以上の重みがあった。
「刀一本で派手にやる気か?」
レオンが皮肉を飛ばす。
だが風間は応じない。ただ短く頷き、足を進める。
クロエが低く囁く。
「余計な口は利かないタイプね。だが腕は確かよ。」
地下迷宮の扉が開かれる。
湿った空気と、鉄と薬品の匂い。
奥から姿を現したのは、異界因子で造られた実験兵器
鋼鉄の四肢を持つ異形だった。
咆哮。
セリーヌが即座に銃を構え、レオンが重火器を撃ち込む。
だが怪物は壁を砕いて突進してくる。
その刹那、風間が一歩前に出た。
静かに鞘から刃を抜く。音はほとんど聞こえない。
次の瞬間、怪物の動きが止まった。
膝関節と首筋に、正確な斬撃が走っていたのだ。
「……。」
風間は言葉を発さず、刀を振り払い、鞘に納める。
アイゼンが短く息を呑んだ。
「速い……。」
だが戦いの裏で、アリシアはすでに動いていた。
黒衣の姿が研究所の中枢端末を掌握し、光を浴びた装置を抱える。
「“ラストコア”これで異世界の扉は、私の意志で開かれる。」
クロエが叫ぶ。
「止めなさい、アリシア!」
しかしアリシアは一瞥だけ残し、闇の中へと消える。
残されたのは破壊された研究施設と、不気味な静寂だけ。
セリーヌが唇を噛む。
「また……先を越された。」
風間は答えない。
ただ仲間たちを守るように最後尾に立ち、暗い地下道を見据えていた。
その背中には、寡黙な剣士の覚悟だけが刻まれていた。




