第2話 ベルリン・.ブラックマークット
ベルリンの夜は、冷たい雨に濡れた石畳がネオンに反射して、まるで血の海のように赤と青に揺れていた。市街地の裏通りにひっそりと現れた秘密競売の会場。そこでは、異界兵器が闇の富豪たちの手に渡ろうとしていた。
MI6のチームは静かに潜入を開始した。アイゼンは黒いタキシードに身を包み、貴族的な微笑みと優雅な歩き方で競売会場へと進む。一方、セリーヌは濡れた路地をバイクで駆け抜け、外部支援の準備を整えていた。ジャスパーは小型ドローンを操作し、上空から会場周辺の動線を補足している。
だが、その裏で、アリシアの影がすでに動いていた。暗闇の中、彼女の鋭い視線がアイゼンを捉える。
「これは序章よ」
挑発的な声が、雨音にかき消されながらも確かに届いた。
突然、競売会場の外でバイクと車両が入り乱れるチェイスが始まった。アリシアはオメガ・スフィア残滓の一部を確保し、闇夜に紛れて逃走する。セリーヌは即座にバイクで追跡を開始。アイゼンは車両で後方支援し、ジャスパーはドローン越しにルートを指示する。
ベルリンの夜。雨に濡れた石畳の路地がネオンに赤く染まる。冷たい風が吹き抜ける中、バイクと車がギリギリの速度で街を駆け抜けた。タイヤのスキール音が路地に響き、雨粒が光を弾く。
セリーヌの黒いバイクが先頭を走る。彼女の狙撃銃は正確無比、瞬間的に右側の敵車両のタイヤを撃ち抜き、車は暴れながらスピンを始める。
「タイヤ、ヒット!」無線でジャスパーが報告する。
だが、アリシアの部下たちは簡単には追われない。煙幕弾とEMPグレネードを投げつけ、街灯が次々と消える。路地は闇に包まれ、視界は極端に悪化した。
「信号機、ジャスパー!」セリーヌが叫ぶ。
「了解、交差点を封鎖!」
ジャスパーはドローンの操作桿を叩き、信号機が一斉に赤に変わる。敵車両は進路を遮られ、慌てふためきながら横滑りする。
アイゼンは静かに息を吐き、魔族の力を解き放つ。掌から展開された半透明の障壁が、敵車両の進路を阻む。車は横転し、金属の軋む音が雨音に混ざった。
路地の終点、アリシアは冷静に高架下のトンネルへ滑り込む。煙と暗闇の中、セリーヌが追い詰める。バイクのヘッドライトが彼女の姿を捉える瞬間
アリシアは煙の中に消えた。
「また会いましょう、MI6。次は、カイロで」
アリシアの声だけが、雨と混ざり、夜に残った。
MI6本部・作戦後分析室
チームが帰還すると、クロエ・ルノワールは淡々と情報を整理し始めた。モニターに映るアリシアの軌跡と異界兵器の流通データを睨みつけながら、冷徹に分析を口にする。
「彼女の次の目的地は……カイロ。オメガ・スフィアの残滓が、そこに集まっているわ。」
アイゼンは窓の外の雨を見つめ、静かに呟いた。
「これは終わりではない。始まりだ。彼女の“序章”に、我々の“反撃”を重ねよう。」
夜の雨音が、静かに部屋を満たす。ベルリンでの追跡劇は終わった。
しかし、物語の幕開けは、すでに動き出していた。




