第10話 誓いの終焉
剣と剣。意地と意志。
亡霊騎士団との戦いは、ただの戦闘ではなく
過去と現在が交わる、魂と魂の対峙であった。
カズヤの剣が煌めき、アイゼンの剛腕が火花を散らす。
だが亡霊の数は減らない。
彼らは倒れても、霧の中から再び立ち上がる。
「……無限に、戦い続けるつもりか。操る者をヤルしかない。」
アイゼンの瞳が鋭く細められた。
魔力が奔流のように吹き荒れ、空が裂ける。
大地が震え、崩れゆく城の残響の中。
「……愚かだな」
アイゼンハワードが静かに一歩を踏み出す。
その眼差しは冷酷にして揺らぎなく、手にした黒き魔剣が空気を切り裂いた。
《断罪ノ刃〈ギロティーナ〉》。
抜かれた瞬間、世界そのものが悲鳴を上げる。
雷鳴のごとき衝撃音が響き、空間が歪む。
「消えろ、夢の術師……」
一閃。
銀の閃光が宙を奔り、虚空を裂いた。
ヴァルドの繰り出す幻影の網を、アルの細剣は舞うようにすり抜け、
まるで風の刃のように首筋を斜めに裂き貫いた。
「……ッ!」
ヴァルドの目が見開かれた。
その唇からこぼれたのは笑みか呻きか。
「こ、これは……夢か……現か……」
だが次の瞬間、黒い呪言が低く、断罪の鐘のように響き渡る。
「断罪。
その魂、夢で計られし者に死を」
アイゼンハワードの冷酷な詠唱が終わると同時に、魔剣ギロティーナがヴァルドへと振り下ろされた。
轟音。
ヴァルドの肉体が黒い霧に呑み込まれ、夢の繭ごと裂かれていく。
「ありえぬ……我が、忠誠を操る夢は……」
絶叫が、やがて泡のように消えた。
残されたのは、ひび割れた仮面と、夢の残滓のような灰だけだった。
その瞬間、空気を満たしていた圧がふっと消えた。
長らく縛られていた鎖が断たれる音が、確かに響いた。
城壁に並ぶ亡霊騎士たちが、一人、また一人と武器を下ろす。
その眼差しから憎悪は消え、静かな安堵が広がっていた。
「……我らの誓いは、遂に果たされたのか」
先頭に立つグラウスの亡霊が、薄く微笑む。
彼の背後に、セリスをはじめとする騎士団全員が並ぶ。
彼らは一斉に膝をつき、最後の敬礼を捧げた。
その姿は、誇り高く、崇高であった。
「騎士団よ……長きに渡り、この地を護ってくれた。
赦されざる忠誠を……我は見届けた」
アイゼンハワードの声は低く震え、だが誇りを宿していた。
カズヤはただ、剣を握りしめながら頷いた。
その手に重さはもうなかった。
剣に宿っていた魂は、光となって舞い上がり、彼の指をすり抜けていった。
光の雨の中で、亡霊騎士たちの姿はゆっくりと消えていく。
まるで、救われた魂が天へと昇るように。
静寂が訪れた。
城を覆っていた呪縛の霧は晴れ、夜空の星が姿を現す。
「……これで、ようやく……終わったのか」
カズヤの呟きに、アイゼンは答えなかった。
ただ夜空を仰ぎ、亡き部下たちの魂に最後の祈りを捧げていた。
だが遠くで、雷鳴のような不穏な轟きが再び響く。
封印が揺らぎ、彼らの長い戦いがようやく終わりをつげたのだ。




