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【ランキング12位達成】 累計56万2千PV 運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『カズヤと魔族のおっさんの事件簿:幽騎士城の夜想曲(ノクターン)』

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第8話 夢術の戦場

石壁が軋み、霧が濃くなった。

ヴァルド・ノクスは笑みを浮かべ、手にした黒い水晶を掲げる。


「さあ――夢を見よう。

血塗られた誓いも、裏切りの記憶も、すべてを溶かす甘美な幻をな」


瞬間、回廊の空気がねじれた。

カズヤとアイゼンの足元が割れ、底知れぬ深淵に吸い込まれていく。



目を開けた時、二人は荒れ果てた大地に立っていた。

頭上には赤黒い月。地平線の果てまで、鎧を纏った亡霊たちが剣を掲げて並んでいる。


「……ここは……」

カズヤの声が震える。


「あのころの戦場だ」


アイゼンハワードは低く呟く。

「かつて我と騎士団が戦った、あの夜を……奴が再現している」


亡霊たちの行進は、まるで時間が巻き戻されたかのように正確。

アイゼンの目には、死んだはずの部下たちの顔が映っていた。


「お前たち……」


その声に応えるように、鎧の列が一斉に剣を振り下ろした。


轟音。大地が震え、炎が走る。

だが、その熱も痛みも妙に曖昧だった。


「……これは夢だ、幻だ……!」

カズヤは気づく。だが、幻に過ぎないはずの刃が彼の頬をかすめ、赤い血を流した。


「現実と幻の境界を、奴が歪めている」

アイゼンの剣が亡霊を薙ぎ払う。だが切り裂かれたはずの影は、すぐに形を取り戻して襲いかかってきた。


「無限に続く……これは、心を折るための戦場だ」


空から声が降り注ぐ。

「どうだ、アイゼンハワード。死んだ部下の幻影に囲まれ、剣を振るう気分は?忠義に縛られた彼らの亡霊を前にして、貴様は己の罪から逃げられるか?」


アイゼンの目が怒りで赤く光る。

「……奴らを殺したのは私ではない。だが――その罪を背負うのは私だ」


亡霊の群れが迫る中、彼は叫んだ。

「カズヤ! 幻に飲まれるな! これは心の戦いだ!」


刹那、カズヤの手にする剣が光を放った。

セリスの声が、頭の奥に響く。


「……恐れるな。幻はお前を裂けぬ。お前が選んだ“誓い”を信じろ」


カズヤは息を吸い、剣を握り直す。

「俺は……俺はもう迷わない!」


剣を振り抜いた瞬間、迫りくる亡霊の群れが霧となって消えた。

だがすぐにまた、炎の影が立ち現れる。


終わりなき幻影。

その中央で、ヴァルドの影が薄笑いを浮かべていた。


「いいぞ……その苦悩、その決意……」

ヴァルドの声は甘く絡みつく。


「絶望の果てにこそ、封印は解かれるのだ。

もっと夢に溺れろ……カズヤ、そしてアイゼンハワード」


赤黒い月の下、現実か幻か分からぬ戦場が、なお二人を飲み込んでいった。


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