表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ランキング12位達成】 累計57万2千PV 運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『カズヤと魔族のおっさんの事件簿:幽騎士城の夜想曲(ノクターン)』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

598/1386

第7話 剣の記憶と夢術師の影

戦いの余韻がまだ石の回廊に漂っていた。

アイゼンハワードは血のように重い沈黙を背負いながら、崩れた甲冑の残骸を見下ろしていた。


「……グラウス……」

その声には苦渋が滲む。


カズヤは手にする剣を見つめていた。

亡霊の消滅とともに、その刃から微かな声が響いた。

低く、しかし誇り高い響き――それは、かつての騎士団長セリスの声だった。


剣に宿る声

「若き者よ……お前が、この剣を握るのか」


カズヤは息を呑む。

「……あんたは……誰だ?」


「我が名はセリス。かつて、この城を治めた騎士団の長……そして、仲間と共に魂を誓いに縛られた者だ」


声は剣の金属を伝い、耳ではなく心臓に直接響いてくる。

カズヤの視界には、断片的な記憶が流れ込んだ。



■■■剣の過去の記憶へ


気づけば彼は、血の匂いが充満する大広間に立っていた。

崩れた旗、割れた盾。

玉座の前には、十数名の騎士が跪いていた。


その中心に白銀の鎧を纏った男が立つ。

高潔な瞳を持ち、しかし深い哀しみを宿したその姿。


「……お前が、剣を握った若き者か」


「……あんたが……セリス……騎士団長?」


「そうだ。これは“記憶”だが夢術に乱されてはおらぬ。

お前は正しく、我が誓いに触れたのだ」


セリスは手にした剣をゆっくりと床に突き立てた。

その周囲で騎士たちが、傷だらけの体を震わせながら声を合わせる。


「裏切りの名を被りても、我らは護る」

「血に染まりても、忠義を貫く」

「いかなる呪いに縛られようとも、この城を、封印を……守り抜く」


カズヤは息を呑む。

「じゃあ……亡霊になってまで戦っているのは……」


「忠誠が我らを鎖とした。

それを奴――ヴァルドが利用している。

夢を喰らい、忠義を歪め……死してなお我らを操るのだ」


セリスの目が、真っ直ぐにカズヤを射抜いた。


「若き者よ……お前は剣を通じて、我らの誓いを知った。

ならば、


選べ。

この呪縛を断ち切り、我らを解き放つのか

それとも、己の血にその誓いを継ぐのか」


「……裏切り者、と呼ばれたのは真実ではない。

我らは王命を拒み、“夢術師ヴァルド”を封じるために、己らを縛ったのだ」



■■


「カズヤ!」


遠くから声が響いた。

アイゼンハワードの叫びだ。

カズヤの意識は急激に現実に引き戻される。




霧の回廊。亡霊たちが再び姿を現す中、

黒衣の男、ヴァルド・ノクスが静かに歩み出る。


挿絵(By みてみん)


アイゼンハワードの表情が険しくなる。

「……夢術師ヴァルド・ノクス。やはり奴の名が出るか」


「知っているのか?」

カズヤが問う。


「かつて魔界を混乱に陥れた呪術師だ。夢を操り、忠誠や愛を幻に変えて支配する。百年前、騎士団が命を賭して封じたのは……間違いなく奴だ」


そのとき、冷気が空気を裂いた。

回廊の奥、黒い霧が立ち込め、その中心から一人の影が歩み出る。

長い外套、仮面のように白い顔、血のような瞳。


「おや……騎士団長と語らっていたのか?よもや彼が、真実を語ったとでも?」


カズヤは剣を強く握りしめた。

「……ああ。あんたが奴らの忠誠を弄んでるってこともな」


ヴァルドの唇がゆがむ。

「忠誠心など、甘美な夢にすぎん。

人間はその夢にすがり、死してなお鎖に繋がれる。

私はただ、その“夢”を利用しているだけだ」


アイゼンハワードが剣を構え、低く言った。

「……お前の夢は、ここで終わる」


ヴァルドは笑い、指を鳴らす。

石壁が震え、亡霊の群れが霧の中から一斉に姿を現した。


カズヤの胸には、セリスの声がまだ残響していた。


「……お前が選んだ道で、我らを救え」


カズヤは息を呑み、剣を握りしめる。

「……俺が、この誓いを終わらせる」


彼の瞳に迷いはなかった。

その姿を、アイゼンハワードは横目で見て、微かに口角を上げた。


「よく言ったな、孫よ。……では、やるぞ」


そして、亡霊騎士たちの群れと、夢術師ヴァルドの影に向け、二人は歩みを進めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ