第6話 亡霊騎士グラウス ―誓いの残響―
石造りの回廊に、冷たい風が吹き込む。
深紅の瞳を光らせたアイゼンハワードの前に、漆黒の甲冑に身を包んだ亡霊が立ちはだかる。
「……グラウス……!」
将軍の声が震えを帯びた。
「将軍……いや、裏切り者 魔族アイゼンハワード!」
亡霊は大地を震わせるような声で叫ぶ。
「お前の命令で、俺たちは血の海に沈んだ! あの日から、この剣は怒りに縛られ続けている!」
グラウスが剣を振り上げる。
その一閃は空気を裂き、石壁を粉砕するほどの重さを持っていた。
アイゼンハワードは受け止める。
甲冑と剣がぶつかり合う轟音が、城内に響き渡った。
「貴様が……俺の命令を忘れたか!」
アイゼンハワードが怒声を放つ。
「俺は“退け”と命じた! だが、お前たちは引かなかった!」
「違う! 俺たちは忠義を選んだ!」
火花が散り、互いの剣が震える。
「お前を信じた! お前の剣に従った! だが結末は、無惨な死と、誓いの呪縛だ!」
アイゼンハワードの目に苦悩が浮かぶ。
「ならば、今斬るしかない。お前を……誓いから解き放つ!」
二人の剣が連撃を繰り返す。
一撃ごとに床石が砕け、壁が崩れ、粉塵が舞い上がる。
剛力と技巧、怒りと冷徹。全てがぶつかり合う。
「俺は……お前の背を追ってきた!」
グラウスの亡霊が咆哮する。
「誓いも、忠義も、すべてお前の剣に託した! だが……お前はその信頼を裏切った!」
「裏切ってなどいない!」
アイゼンハワードの声が響く。
「俺もまた、お前たちを背負い続けている! この胸の傷は、俺の罪だ!」
剣と剣が激突し、互いに深く食い込み、火花が弾ける。
互いの意志と意志が、鉄のようにぶつかり合った。
最後の一閃。
アイゼンハワードの剣がグラウスの胸甲を貫いた。
「……将軍……俺は……まだ……誓いを……」
亡霊の声が震え、甲冑が砕けて光となる。
その表情は怒りでも恨みでもなく、かすかな安堵を宿していた。
そして、光の粒となって消え去る。
アイゼンハワードは剣を下ろし、深い吐息をついた。
「……すまぬ、グラウス。お前の誓いを、俺が断ち切った」
背後で見ていたカズヤは、ただ拳を握りしめるしかなかった。
この戦いは、ただの亡霊退治ではない。
過去の罪と忠誠、誓いと裏切りが、血のように重く絡み合っていた。




