第4話 オルド神父と地下聖堂の鍵
村の教会の奥。古びたステンドグラスから差し込む光が、長椅子を淡く照らしていた。
オルド神父は深くため息をつき、震える手で古びた銀の鍵を差し出した。
「……あなた方になら、渡すべきだろう」
「これは?」
カズヤが問いかける。
「地下聖堂へ通じる隠し通路の鍵だ。かつて私も騎士団に仕えていた……封印の存在を、誰よりも知っている」
神父の目には苦悩が宿っていた。
「亡霊たちは、怨霊ではない。彼らは誓いによって縛られ、この地に留まっている。封印が破られれば、村も城も、いや、世界が災いに飲まれるだろう」
アイゼンハワードは神父をじっと見据える。
「ならば、その誓いを辿るしかあるまいな。鍵を受け取ろう」
地下聖堂へ
夜、城へ戻った二人は、朽ちた廊下の奥に隠された石扉を見つけた。
オルド神父の鍵を差し込むと、低い軋み音と共に石が動き、冷たい風が吹き出す。地下へと続く階段は、闇そのもののように果てしなく深い。
降り立った空間には、古代の魔方陣が床一面に描かれていた。
中心には石碑があり、そこにびっしりと刻まれていたのは、騎士団の誓いの言葉だった。
カズヤは日記で見た文章を思い出しながら、石碑を指でなぞる。
「我らは血をもって契りを結ぶ。
裏切りと呼ばれようとも、忠誠のために剣を掲げ、
死してもなおこの城を護らん」
その瞬間、古剣が淡く光り、セリス団長の声が再びカズヤの胸を震わせる。
『……その言葉を、声にしてくれ。誓いはまだ果たされていない』
カズヤは息を呑み、石碑に刻まれた文言を唱える。
「我らは血をもって契りを結ぶ――」
石碑が共鳴するように低く鳴動し、魔方陣の一部が赤く灯る。
地を揺るがすような重い響きと共に、封印がわずかに解除された。
アイゼンハワードは険しい顔をした。
「……やはり、この封印は『誓い』そのものによって維持されている。
誓いを口にしたお前が、今度はその一部を解いたわけだ」
カズヤの胸に冷たい戦慄が走る。
「つまり、俺が……彼らの“誓い”を継いでしまった……?」
石碑の影から、鎧を纏った亡霊が一体、静かに姿を現した。
剣を抜き放つでもなく、ただ見守るように。
その瞳には、恐ろしさよりも切実な願いが宿っていた。
『我らの誓いを受け継ぐ者よ……封印の奥に潜むものを目覚めさせるな……』
低く、祈るような声。
しかし同時に、魔方陣の奥から不気味な気配が立ち上がる。
誰かが、あるいは何者かが、この封印を破ろうと暗躍している。
カズヤとアイゼンハワードは互いに目を合わせ、静かに剣とマントを構えた。
夜の迷宮は、さらに深い真実を飲み込んでいく。




