第1話 グレイデン村での目撃騒動
霧に包まれた朝のグレイデン村。
丘の上で羊を追っていたトム・エルドが、怯えた表情のまま村へ戻ってきた。
「……見たんだ、赤い盾の亡霊を……!」
彼の声は震え、周囲の村人たちの耳をつんざいた。
「赤い盾? また、夢じゃないのか?幻覚か?」
村長のヘルガ・グレイは眉をひそめ、腕を組む。
「騒ぐな、トム。あれは昔話に過ぎぬ」
しかし、薬師リゼ・ファルンは冷静に首をかしげる。
「……いや、子供が怯えるほどの現象なら、ただの幻覚とは思えません。丘に足跡も残っていた」
村人たちの間にざわめきが広がる。
ミラ・エルドが必死に声を張る。
「落ち着いて! 羊も人も無事なのよ。恐怖に支配されるのは、誰の得にもならない!」
その時、村外れの教会からオルド神父が姿を現す。
「……城の地下聖堂に封印があることを思い出す者もおる。慎重にならねば」
村人の視線が一斉に神父へ向かう。
「……誰も近づくな、と言っておるのじゃ……」
霧が濃くなる夕方、アイゼンハワードとカズヤは村に到着した。
トムの案内で丘の上に立つ二人の前には、昨日少年が目撃した赤い盾の亡霊の痕跡が残っている。
「なるほど……魂縛の痕跡か」
アイゼンは薄く笑い、マントを翻す。
「カズヤ、感覚を研ぎ澄ませろ。ここから先は、ただの幽霊騒ぎではない」
二人は城門をくぐる。
そこに広がっていたのは、時間が止まったような空間だった。
埃は宙に舞い、蝋燭の炎も揺れない。壁には古い鎧が並び、無音の廊下が永遠に続くように感じられる。
突然、鎧だけが動き出す・幽霊騎士団の出現だ。
「ガチャ、ガチャ……」金属の擦れる音が響く。
赤い盾を持つ騎士が複数、二人を囲む。
カズヤは剣を握る。
すると、古びた剣の内部から低く響く声が聞こえた。
「……誓いを果たす者に、道を開く……」
剣の声に導かれ、カズヤは鎧の動きをかわし、幽霊騎士の意図を理解し始める。
その声は、騎士団長セリスの魂・忠誠と誇りの記憶そのものだった。
「……なるほどな。騎士たちは復讐のためではなく、自らの誓いを守るために動いている」
アイゼンは呟き、冷徹な瞳で幽霊たちを見据える。
霧深い古城の奥に、二人の影は静かに、しかし確実に歩みを進めた。




