表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ランキング12位達成】 累計55万1千PV 運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『カズヤと魔族のおっさんの事件簿:幽騎士城の夜想曲(ノクターン)』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

591/1339

プロローグ 赤い盾の亡霊

霧が谷間を這うように流れ、村を包み込む夜だった。


羊飼いの少年が丘を駆け抜け、怯えた羊たちが混乱の中で逃げ惑う。

「や、やめて……! あれは……!」

トム・エルドの小さな声が、濃霧の中で震えた。


視線の先に、赤く光る盾が浮かぶ。

動く鎧足音はあるのに、人影はない。

ガチャ……ガチャ……

金属の擦れる音が森の静寂を切り裂く。


少年の心臓は跳ね、全身が凍りつく。

「誓い……果たさねばならぬ……」


その声は、少年にだけ届いたわけではない。

森を抜け、谷を越え、遠くの街道沿いの家々にも、誰もいないはずの場所から低く響いた。


赤い盾の亡霊。

それは、百年前に死んだはずの騎士団の魂が形を成したものだった。


翌朝、霧が晴れると、丘には踏み荒らされた跡と、鋭い刃の痕が残っていた。

村の薬師リゼ・ファルンは眉をひそめ、静かにつぶやく。

「ただの幽霊騒ぎではない……何か、魂の力が関わっている……」


村長ヘルガ・グレイは頑なに首を振った。

「城との関わりは断つべきじゃ……過去のことは忘れるのじゃ」


だが、赤い盾の亡霊は村人の視界の端で、霧の中に揺らめき続ける。

誰も触れられぬ誓いの象徴。その存在は、恐怖と不安を村に刻みつけた。


同じ日の夕刻、ロンドンに近い都市の片隅で、アイゼンハワードのもとに一通の封書が届く。


封を切ると、中には短い依頼文が記されていた。


「山岳地帯グレイデン村。赤い盾の亡霊の目撃情報あり。村人失踪。調査・鎮圧を要請。」


アイゼンは、ワインレッドのマントを整えながら、静かに息をつく。

「……ふん、魂縛か。やれやれ、また古い因縁が顔を出すようだな」


そして、孫のカズヤに向かって微笑む。

「カズヤ、久しぶりに事件の匂いがするぞ……行くか」


霧深い谷に、再び歩みを進める二人の影が重なる。

赤い盾の亡霊の百年前の誓いが、今、目覚めたのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ