第8話 崩壊都市の空― オメガ・スフィアを巡る地上奪還戦
夜空に火花が散り、ビル群の残骸の上を二機の戦闘スーツが交錯する。
セリーヌのスーツは傷だらけ、HUDには警告が赤く点滅していた。
だが彼女の緑の瞳は、鋭い光を失ってはいない。
正面から迫るアリシア。
黒い戦闘スーツに長い黒髪が舞い、銃口がセリーヌを狙う。
「あなたは優等生ね、セリーヌ。命令通りに従い、正義を掲げる。……でもその正義は、いつも誰かの血で塗られるの。」
セリーヌは息を荒げ、反撃のブレードを振るった。
「裏切り続けるあなたに、正義を語る資格なんてない!」
銃撃とブレードの衝突で、夜空に火花が咲く。
ビルの間を縫うように二人は飛び、時に急降下し、時に急上昇する。
アリシアは一瞬の隙を突いてセリーヌの肩を撃ち抜いた。
戦闘スーツの装甲が弾け、警告音が鳴り響く。
「MI6に拾われた時、あなたはまだ希望を持っていたでしょう。
でも世界はそんなものを許さない。だから私は裏切り続けた――そうしなければ生き残れなかったのよ。」
セリーヌは歯を食いしばり、返す言葉を銃弾に込める。
「それでも……私は信じる!
たとえ何度壊されても、信じることをやめたら、私もあなたと同じになる!」
二人の弾丸と刃が夜を裂き、やがて互いのスーツに致命的なダメージを与えた。
轟音。
二人の戦闘スーツは制御を失い、炎を引きながら墜落していく。
セリーヌは最後の力でパラシュートを展開し、廃墟の高層ビルの屋上に転がり込んだ。
その視線の先には、同じく墜落したアリシアの姿。
黒煙の中、彼女はなおも立ち上がり、冷たい瞳をセリーヌに向ける。
遠く、アイゼンとジャスパーが駆けつける足音が響く。
ジャスパーが無線越しに叫んだ。
「ログを解析した……!アリシアは過去十年、各国のスパイ組織を渡り歩いてる!潜入、裏切り、暗殺……その繰り返しだ!」
アリシアは嘲笑を浮かべ、髪を振り払った。
「そうよ。私は道具として扱われ、切り捨てられてきた。
だから私はもう裏切るしかない....裏切りだけが、私の生き方。」
セリーヌは血を滲ませながらも、銃を構え直す。
「……それでも、私はあなたを止める。あなたの選んだ“裏切りの生き方”が、世界を滅ぼすから。」
その瞬間、ジャスパーの端末が警告音を鳴らす。
「……出た!オメガ・スフィアの座標が完全に確定した!北部廃墟タワーの地下。そこに眠ってる!」
空気が震えた。
遠方の廃墟から、異界のエネルギーが噴き上がり、夜空を照らす。
アリシアはその光を見上げ、唇を吊り上げた。
「やっと……やっと見つけた。」
アイゼンはマントを翻し、仲間たちを守るように立ちはだかる。
「……これ以上は渡さん。オメガ・スフィアは、我らが止める。」
廃墟都市を舞台に、新たな地上奪還戦が始まろうとしていた。




