第6話 瓦礫都市の大乱戦の死闘
通路を駆ける二人の背後で、カイの笑い声が追いかけてくる。
「逃げられると思うな……オメガ・スフィアは必ず我らのものだ!」
瓦礫を越えた瞬間、無線が割れた。
『おっさん!セリーヌ!早く!非常口まで残り二百メートルだ!』
ジャスパーの声だ。
セリーヌは戦闘スーツのアシストを最大出力に切り替え、瓦礫の斜面を駆け上がる。銃弾が背後をかすめるたび、アイゼンは振り返り漆黒の炎を放ち、追手を焼き払う。
崩壊しかけた地上出口の鉄扉を蹴破ると、眩しい光が二人を包んだ。
腐蝕した空気、灰色の空。汚染都市の地上だ。
だが、終わりではなかった。
地上の廃墟にはすでにネブラの戦闘車両が待ち伏せていた。
エンジンの咆哮、装甲兵士の銃口。
セリーヌは歯を食いしばり、ラストコアを胸に抱きしめた。
「……戦闘は、まだ終わってない。」
アイゼンは赤い瞳を細め、風に舞う灰を見据えた。
「真の地獄は、ここからだ。」
廃墟都市の大乱戦。次なる死闘の幕が上がろうとしていた。
放射能に焼けただれた瓦礫都市。
崩れた高層ビルが斜めに傾き、黒い雨が腐蝕した金属を打ち抜く。
その中心を、MI6特務課の装甲車両が駆け抜けていた。
セリーヌのスーツに組み込まれたフィルターが作動し、HUDに赤い数値が踊る。
「放射線レベル、限界値ギリギリ。急いで通過するしかないわ。」
後部シートでジャスパーは機材を睨みながら呟いた。
「電磁波ノイズが強すぎるな……でも逆に言えば、敵のセンサーもここでは誤作動を起こす。隠密行動のチャンスだ。」
その言葉を嘲笑うかのように――
瓦礫の上から、無数の黒影が跳び降りた。
暗殺者集団
彼らは闇に紛れる異界の暗殺部隊。
黒い強化スーツに蜂のような装備、腕から伸びる毒刃。
呼吸一つ乱さず、無音で瓦礫を駆け、装甲車両に殺到する。
セリーヌが反射的にハンドルを切る。
車体が横転しかけるほど急旋回し、暗殺者の一人がフロントガラスを叩き割るように迫った。
アイゼンがマントを翻し、赤い炎を放つ。
「チッ、虫けらどもが!」
炎が数人を吹き飛ばすが、残りは蜘蛛のように壁を這い、三次元的に包囲してきた。
「アイゼン、炎で抑えて! 私が突入する!」
セリーヌが叫び、戦闘スーツの胸部を操作する。
装甲車の屋根が開き、彼女は飛び出した。
HUDに映し出されるのはビルの残骸を利用した立体マップ。
セリーヌは瓦礫に設置されたワイヤーを蹴り、空中で反転。
射撃と体術を織り交ぜ、暗殺者を一人ずつ仕留めていく。
ジャスパーの声が無線に響く。
「セリーヌ、右上三時方向!あそこに狙撃手!」
彼女は即座にサイドアームを抜き、HUDが示した方向に射撃。
弾丸が暗殺者のスコープを貫き、瓦礫に黒い血を散らせた。
敵が三人同時に襲いかかる。
一人の刃をかわし、もう一人の喉を肘打ちで砕き、最後の一人を背負い投げで瓦礫に叩きつける。その一連の動きは、訓練ではなく“生存のための戦闘”そのもの。
「……私をただの支援役だと思わないことね。」
息を整えるセリーヌの目は鋭く、緑の瞳が暗闇の中で光った。
周囲の瓦礫に散った暗殺者の残骸。
だが、ジャスパーの声がまだ緊張を孕んでいた。
「……待て。数は減ったが、シャドウスティングは撤退していない。むしろ獲物を追い立ててる。おっさん、セリーヌ、奴らの狙いは……オメガ・スフィアの座標データだ!」
アイゼンは目を細めた。
瓦礫都市の影に、さらなる気配が蠢いていた。
物語は、さらなる深い闇へと突き進んでいく。




