第4話 地下研究施設
潜入 試練の迷宮へ
夜の灰色都市。地表の下に広がる廃坑の奥。
そこには、かつて軍事同盟が極秘に建造した研究施設が眠っていた。
その最深部に「ラストコアの制御装置」が隠されていると諜報網が掴んだ。
冷たいコンクリートの通路を、アイゼンハワードとセリーヌが音もなく進む。
無線から聞こえるのは、ジャスパーの軽薄な声だ。
「さぁて、ご両人。命知らずの冒険タイムだぜ。僕がナビゲートするから安心して進め。……死ななきゃな!」
セリーヌは肩越しに息をつき、スーツのHUDを展開する。
「冗談は後でいいわ。今は集中して。」
【第一の試練 ― 図像パズル】
二人の前に立ちはだかったのは、鋼鉄の大扉。
表面には13の光るルーンが並び、ひとつを押すたびに迷路のような光が走る。
ジャスパーが無線で告げる。
「これは“異界式連動迷宮パズル”だ。アルゴリズム的には迷路解法なんだけど……ただし間違ったルーンを押すと、爆破センサーが起動するタイプだね。やべーやつ。」
セリーヌが手を伸ばしかけるが、アイゼンが制止する。
赤い瞳がルーンを読み取り、静かに呟いた。
「これは単なるゲームではない……魔族の叙事詩の断片だ。
“月を撃ち落とした矢の後に、太陽は生まれる”――
順番は、弓・矢・太陽だ。」
セリーヌが指示通りにルーンを押す。光の迷路は正しい道を描き、扉が重く開いた。
【第二の試練 ― 崩れる床】
扉の先は、広間一面に光るタイルの床。
一歩進むとタイルが軋み、奈落が口を開ける。
「圧力感知式だな。」と無線のジャスパー。
「でも大丈夫、スーツのHUDで重力の揺らぎを補足できるはずだ。セリーヌ、数歩先だけど安全タイルをマークしてやる。」
HUDに光のラインが浮かび上がる。だが先は霧のように途切れている。
「ここから先は私の判断次第ってわけね……!」
セリーヌは深呼吸し、疾風のように跳躍する。
左、右、斜め前。瞬時のルート判断でタイルを踏み抜き、崩れる床を紙一重で回避していく。
背後から崩落音が轟き、塵煙が押し寄せる。
アイゼンは彼女の後を追い、魔族の俊敏さで飛び越える。
「人間にしては悪くない判断力だ。」
「褒め言葉として受け取っておくわ!」
【第三の試練 ― 音響コード】
広間の最奥、最後の扉には奇妙な装置が埋め込まれていた。
小さな穴から低音が漏れ出し、不気味な共鳴が壁を震わせている。
ジャスパーの声が緊張に震える。
「音声コード式だ。人間の声じゃ無理だな……でも、アイゼンなら――」
アイゼンは目を閉じ、低く古代魔族の言葉を口にする。
「門よ開け、我は旅人。太陽を携えし者なり。」
彼の声が周波数と共鳴し、扉全体が紫に輝いた。
轟音とともに封印が解け、最深部の広間が姿を現す。
中央に鎮座するのは、黒曜石のような球体。内部で紫光が脈動し、周囲の空間が歪んでいる。
セリーヌが息を呑む。
「これが……ラストコアの制御装置?」
アイゼンの赤い瞳が鋭く光る。
「いや、これは模造品だ。“オメガ・スフィア”を制御するための疑似核……誰かが人間界に意図的に残した罠だ。」
その言葉を遮るように、拍手の音が響いた。
闇の中から、長い黒髪の女が現れる。
冷たい瞳、洗練された戦闘服。アリシア・ヴァルデス。
「さすがね、アイゼンハワード。
でもこれは私のもの。あなたたちは、ただの捨て駒よ。」
警報が鳴り響き、黒い戦闘スーツの部隊が次々と敵が現れる。
そして、最初の銃声が、地下を震わせた。




