第二話 地獄からの使者
空は血のように赤く、大地は焼け焦げ、空気は腐った肉の臭いが満ちていた。
ここはもう「王国」ではない。ただの死と魔の支配地、廃墟したメソポタミア王国の成れの果て。
王都を包む城壁は崩れ、教会の尖塔は倒壊し、街道には焼け焦げた死体と獣の足跡が散乱していた。
人間の姿は、もうどこにもなかった。
ただ、魔物の咆哮と唸り声だけがこだまする。
足元では、屍が手を伸ばす“元・人間”の亡骸が呻いている。
「……地獄だな」
勇者アルベルトが言った。そう、まさにこの世の地獄だった。
すると、地鳴りと共に黒煙を上げて現れた二体の巨獣。
ヒュドラ、9つの蛇頭を持つ、巨大な大蛇。一つの首からは酸を、もう一つの首からは黒炎を吐きながら、地を這いずっていた。
その目は、ただ殺意だけで光っていた。
ケルベロス、燃えた皮膚がただれた、地獄の門番。三つの頭はそれぞれ別の言語で呻き、ヨダレではなく毒液を垂らしながら、こちらを睨みつける。
まさに冥府の門が開かれた証拠だった。
名前:ケルベロス
体力:2200
攻撃:650
防御:500
素早さ:600 固有スキル 3連攻撃
名前:ヒュドラ
体力:2500
攻撃:750
防御:460
素早さ:340 固有スキル 9連攻撃 自動再生
「くるぞッ!」
アルベルトが叫ぶと同時に、ケルベロスが突進!
アルベルトに飛びかかり、顔をベロベロと舐め回す。
「お、おい……やめろ! 舐めんな! 舐めるなってば!!」
と油断した瞬間!
ガブッ!! ガブッ!! ガブゥッ!!
三つの首が一斉に噛みついた!!
「ぎゃああああああッッッ!!!!」
地獄の鉄犬の牙が、勇者の腕に食い込んでいた。
突然の攻撃、まさに地獄である。
その横では、グレイス・オマリーがヒュドラと対峙していた。
「あんた……でっかい蛇ってだけで怖いのに、火ぃ吐くのはやりすぎでしょ……」
そう言いながら、彼女は腰のポーチから純度95%のウォッカを取り出した。
「じゃ、乾杯しよっか」
ウォッカをヒュドラの口にブシャアッ!とぶっかけ、
すぐさま火打石で導火線に火を灯す。
シュボッ……ジリジリジリ……!!
爆弾が、赤く染まった。
「乾杯のあとは、爆☆炎☆地☆獄!!」
ズッ……バァアアアアン!!!!!!
ヒュドラの顔面に炸裂!!
燃え広がる9つの首、焼け落ちる目玉、飛び散る黒血。
「おらああああああ!!!!!」
怒号と共に、2発目、3発目の爆弾も火を吹く!!
ボッガアアアアアアアン!!!!
ヒュドラが悲鳴をあげながら溶け落ちていく。
その地獄の炎の中、笑っているのはただひとり、グレイス・オマリー。
「いっけぇえええ!! スペシャル・ハード・ラブカクテル!」
爆発炎上して、ヒュドラが昇天した。
「グレイス、あんたやっぱ狂ってるわ……」
リスクが目を細める。
シスターマリアは両手を組み、空に向かって神聖な祈りを唱える。
「四柱の天使よ、我に力を――!」
「契約の光、審判の翼となれ!」
「《アークエンジェル・デクレア》!!!」
天から降り注ぐ七色の光。
羽を広げた四体の天使が降臨し、
パーティ全員に光の加護を与える。
【勇者のパーティーが全員 防御力+100上がりました。】
「うおおお! 体が……硬い!? って、防御力0の俺にあまり意味ないんだよこれ!!」
リスクが突っ込む。
シスターマリアは振り返り、眉を吊り上げる。
「リスクさん、突っ込んでる場合じゃありません! 勇者さんを助けに行ってください!!」
「あーもう、はいはい! 行きますよっ!」
ケルベロスにガブガブされてるアルベルトを横目に、
リスクは空気のように背後へと回り込む。
「こちとら、存在感ゼロの男だぜ……気づかれずに――」
短剣を取り出し、
「チクチクッ!」と後ろ足を連続で刺す。
ケルベロスが驚いて振り返るが、そこには誰もいない。
「俺は影の必殺の仕事人、だれにも知られることもない影の男だ!!」
チクチクッ
ケルベロスの身体が光に包まれていく――
「ぐるるる……ワォォォン……!」
天を仰ぎ、
ケルベロスは光の中に昇天していった。
「さよならパトラッシュ……あ、違ったわ……ケルベロス……」
リスクがしみじみと呟く。
パーティー全員のレベルが1上がった。(※ただしマーリンを除く)
そして、王国 城の奥まだ踏み入れていない“玉座の間”に、
さらなる“地獄の使者”の気配があった。