第9話 決戦の列車
魔導鉄道《レム=エクスプレス》は霧の中を滑るように進み、終点の駅の灯りがかすかに見え始めていた。
列車内放送が静かに響く。
「全乗客の皆様は食堂車に集合してください」
カズヤとアイゼンは視線を交わす。犯人の輪郭は見えているが、終着駅までの緊張感は消えない。
食堂車の照明が落ち、乗客たちは順に席から立つ。
キタムラ(車掌)が整列を促す。
「皆さん、落ち着いてください。カズヤさんとアイゼンハワードさんがこれから事件の真相を明かします。」
食堂車の空気は張り詰めていた。乗客たちは互いに視線を交わしながら、カズヤとアイゼンに注目する。
カズヤが口を開く。
「皆さん、これまでの証言や列車内で起きたことを整理しましょう。まず、凶器は見つかっていません。しかし、オチアイさんが協力して粉砕し、料理に混入されたことで、物理的証拠は残らなかったのです」
アイゼンが続ける。
「金づちに骨の成分が残っていたのが、唯一の手がかりです。そして、魔界結界の時間ずれがあったことで、目撃証言は微妙に食い違っていました。犯行はこの時間の歪みを利用して計画されたのです」
タカハシが眉をひそめる。
「でも……それなら、どうしてオチアイさんは殺されたんです? 彼は協力していたはずですよね?」
カズヤは沈黙し、視線を落とす。
「オチアイさんは、事件の真相を口にしようとしていた。犯人はそれを恐れて……彼を排除したんです」
サエキが静かに質問する。
「では、私に罪を着せようとしたのは……?」
アイゼンが静かに頷く。
「その通りです。凶器のナイフも、あなたの荷物から“見つかった”ように偽装されていました。犯人は心理操作を用いて、他人に疑いを向けさせたのです」
カズヤは立ち上がり、メモを広げる。
「すべての証言と行動を時系列で整理した。すると……」 アイゼンが静かに続ける。
「誰も嘘をついていなかった。ただ一人、陽気さで隠した者を除いて」
犯人の目の奥には微かな焦りがある。
カズヤが指摘する。
「凶器は骨粉に加工され、料理に投入された。魔界結界の時間の歪みを利用して、列車内での行動時間を錯覚させていた。 フジワラ令嬢は偶然、貨物車両の禁忌品を目撃してしまった。それが原因で……」
アイゼンはさらに説明する。
「オチアイは、あの者を庇おうとして行動していた。そのため危険に晒され、命を落としたのだ」
マツイが静かに言う。
「なるほど……全員の証言は正しかった。ただ見せ方や時間の錯覚で、複雑に見えていただけなのね」
列車内の微妙な異変 その時、列車内の霧が再び濃くなり、魔力の微かな暴走が走る。 ササキは顔をしかめ、タカダは冷静に観察。
アイゼンは魔族の知識を駆使して魔力の流れを分析する。
「この結界の歪みも、犯人が利用した一部だ」
ワタナベが冷ややかに言う。
「なるほど、すべて計算されていたと……でも、具体的な犯人は誰なんだ?」
カズヤは一歩前に出て、列車の窓の外を指さす。
「犯人の名は」
アイゼンが低い声で続ける。
「ハセガワさんです。冒険家の陽気さで全ての行動を隠し、オチアイさんを利用し、凶器を粉砕して隠蔽した。そして、禁忌の品への執着と心理操作によって、証言の微妙な食い違いを作り出したのです」
乗客たちは一斉にざわめき、ハセガワはいつもの笑みを浮かべながらも、微妙な動揺が瞳の奥に覗く。
マツイが声を落とす。
「……すべて計算済みだったのか。証言の矛盾も、オチアイさんの死も……」
イトウは黙ったままハセガワを見据える。
「嘘はもう通用しない……」
列車は終点駅に滑り込み、霧に包まれたホームに灯りが揺れる。乗客たちは安堵と緊張の入り混じった表情を交わした。
そして、誰もが理解した事件の全貌は、ここまで全てが計算された心理戦と魔界結界のトリックによって形作られていたのだ、と。




