表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ランキング12位達成】 累計53万4千PV運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『カズヤと魔族のおっさんの事件簿:魔導列車殺人事件 〜列車内で消えた凶器〜』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

569/1291

第4話 魔界の影響

列車《レム=エクスプレス》は、重々しい唸りを上げながら結界の霧を抜けた。


次の瞬間、車窓に映る景色が一変する。人間界の山並みは途切れ、黒紫の空と赤い稲光が奔る異界の大地が広がった。


「……魔界領域を通り過ぎたな」

 アイゼンが低く呟いた。赤い瞳にちらりと憂いが宿る。


不安を煽るのは景色だけではなかった。

車内の時計が、不意に「カチリ」と音を立て、針を逆に回し始めたのだ。


「な……時間が戻ってる……?」

研究者タカハシが声を上げた。

確かに、食堂車に掛けられた時計の針は五分ほど戻り、ぴたりと止まった。


車掌キタムラは慌てて自分の懐中時計を確認する。

「わ、私のも……三分前に戻っている……。こんなことは……!」


異常は時計だけではない。

ウェイトレスのタカダが首をかしげる。

「さっきお出しした紅茶のポット……もう空になったはずなのに、また満たされてますわ」


「俺の手帳もだ!」

冒険家ハセガワが手を挙げた。


「さっきのページに書いたメモが消えてる。ペンのインクも乾いた跡すら残っちゃいない」


ざわめく乗客たち。


「アルおじ……これは一体」

 カズヤが険しい表情でアイゼンに視線を送る。


「魔界に入った列車は、人間界の時間と同調しない。

結界を抜けた瞬間、時間は“巻き戻される”ことがあるのだ。……これは古い魔術の影響だな」


「巻き戻された……ってことは……」

「証言の矛盾が生じる理由だ」

アイゼンは重々しく続ける。


「ある者にとっては《死体が発見されたのは二十二時》だが、別の者にとっては《二十一時五十五分》……時間の基準そのものが揺らぐのだ」


カズヤは腕を組んで考え込む。

「……じゃあ、矛盾は嘘じゃなくて、みんな“本当に見た時間”を言っている可能性があるのか」


「そういうことだ」

 アイゼンが頷く。

だが“巻き戻り”は必ず一方向ではない。時計は戻ったように見えて、実際には流れを別の道へ導いただけ……。

つまり、そこに誰かが意図を持って仕掛けた可能性もある」


沈黙の中、冒険家ハセガワが窓の外を凝視していた。

黒い霧の向こうに、なにかを確かめるような眼差しで。


彼の指先は震えていたが、その震えは恐怖ではなく、むしろ獲物を追う獣の昂ぶりにも見えた。


「……アルおじ」


「うむ、見ておけ。時間が揺らぐということは、誰かがそれを“利用している”ということだ」


乗客たちの顔に、不安と疑念が交錯する。


フジワラを殺した犯人はまだこの列車にいる。

だが誰が嘘をついているのか、本当に嘘をついている者などいるのかすら分からなくなっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ