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【ランキング12位達成】 累計53万PV運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『カズヤと魔族のおっさんの事件簿:魔導列車殺人事件 〜列車内で消えた凶器〜』

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第2話 消えた凶器

魔導鉄道《レム=エクスプレス》は、霧を切り裂くように魔界の結界を走っていた。窓の外は虚ろに歪み、時の感覚すら狂う不吉な夜。


そのとき、突き刺さるような悲鳴が車内を震わせた。


「ひぃっ! だ、誰かっ! こ、ここに!」


芸術家チナツ・マツイが、蒼白な顔で個室の扉を押し開ける。

駆けつけた人々が目にしたのは、ドレス姿の富豪令嬢フジワラの無惨な姿だった。


絢爛なドレスは血に染まり、胸元には鋭い刃物の傷。

彼女は息絶え、床に横たわっていた。


「……死んでいる」

アイゼンが片膝をつき、赤い瞳で傷口を確かめる。

「一撃で急所を貫かれている。だが……どこにも凶器がない」


「刺した武器が……見つからない?」

カズヤは顔をしかめ、周囲を見回す。


「刺したはずのナイフも、剣も、何も残ってない……」


車掌キタムラは狼狽しながらも、声を張り上げた。

「ただちに全員の持ち物を検査します! 協力をお願いします!」


数十分後。

乗客の鞄、荷物、身に着けた衣類まで、細かく調べ上げられた。

トランクを開ければ衣服や本、土産物が出てくる。

楽器職人のルカのケースからはバイオリン。

冒険家ラウルのリュックからはロープと食糧。


しかし凶器はどこにもなかった。


「……見つからない」

キタムラが額の汗を拭う。

「これだけ徹底的に調べて、どこにも凶器がないなんて……」


「つまり……犯人は、この列車のどこかに隠したってことか」

カズヤが低く言う。

「でも、こんな短時間で、どこに?」


「いや」

アイゼンは赤い瞳を細める。

「“隠した”のではなく、“消えた”と考えるべきだ」


「消えた……?」


「ちょうどこの時刻、列車は魔界結界を通過していた」

アイゼンは窓の外に揺れる霧を見やる。

「人間の論理で説明できない現象も起こり得る。だが同時に――」

彼は静かに息を吐いた。

「“不可能”に見せかけるのは、人間の得意技だ」


車内に沈黙が落ちた。

死体は目の前にある。だが凶器は存在しない。

そして、乗客全員が容疑者――。


「誰がやったのか……」

「いや、そんな……私じゃない!」

「じゃあ一体、どうやって武器を消したんだ?」


互いに疑心暗鬼となり、視線が交錯する。

列車は霧の中を走り続け、鉄の車輪の響きだけが不気味に響いていた。


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