第7話 裏切りのマーケット
砂漠の夜に浮かぶ巨大都市、ドバイ。
煌びやかな摩天楼の影で、廃倉庫群を改造した秘密の武器マーケットが開かれていた。並ぶのは次世代戦車、装甲車、ドローン群、人類を滅ぼす兵器のショーケースだ。
アイゼンは暗闇からそれを見据える。
耳元のイヤーピースから、ジャスパーの落ち着いた声が響いた。
「正面は無理だ。西側のコンテナ群を抜ければ、会場の中枢に出られる。そこに奴らの司令部があるはずだ」
赤い瞳がギラリと光る。
「了解した。セリーヌ、カバーを頼む」
高台に陣取るセリーヌが応じる。
「いつでも撃てるわ。あなたは突っ込むだけでいい」
アイゼンはマントを翻し、影の中を滑るように侵入する。
だが、その瞬間。
ライトが一斉に点灯。
眩い光の中、会場中央に立っていたのは黒いドレスの女。
リディア・マルセリーヌ。
「ようこそ、アイゼン」
彼女は最初から彼の潜入を読んでいた。
次の瞬間、轟音と共に戦車の砲塔が回転し、装甲車の機銃が火を噴いた。
砂塵が舞い、鉄の嵐が会場を覆う。
「クソッ、罠か!」
アイゼンは柱の陰に飛び込み、銃を乱射。
セリーヌの狙撃が敵兵を次々と倒すが、数は圧倒的だった。
ジャスパーの声が響く。
「アイゼン! 右手の搬入口から逃げろ。戦車が二両、こっちに向かっている!」
アイゼンは煙幕を投げ、疾走。
背後で戦車の主砲が炸裂し、爆風が建物を揺らす。
鉄骨が崩れ、炎と砂煙が視界を覆った。
その中で、リディアの声だけが冷たく響く。
「あなたは“真実”を求めた。でも、この舞台は私のものよ」
アイゼンは銃を撃ち返しながら叫ぶ。
「リディア……お前まで敵に堕ちたというのか!」
リディアは微笑む。
「堕ちた? いいえ、私は最初からこちら側だった。ただ、あなたに見抜けなかっただけ」
セリーヌが叫ぶ。
「アイゼン、時間がない! 撤退して!」
アイゼンは苦渋の決断を下す。
仲間を失わず、真実を掴むためには今は退くしかない。
彼は爆発で生じた瓦礫の隙間を駆け抜け、夜の砂漠へ飛び出した。
背後では、戦車の砲撃とリディアの冷笑が響く。
「逃げなさい、アイゼン。あなたの役は、まだ終わらない」
砂漠の夜風が彼のマントを翻す。
仲間の声がイヤーピース越しにかすかに届く。
命からがらの逃走――だが、心の奥に刻まれたのは、愛と裏切りの痛みだった。




