第5話 パリでの再会
パリの夜。
ライトアップされたエッフェル塔が金色に輝き、その姿をセーヌ川に映している。
川沿いの遊歩道には観光客の姿もなく、ただ川面を渡る風が冷たく頬を撫でた。
その闇の中に、ひとりの魔族のおっさんが立っていた。
アイゼンハワード・ベルデ・シュトラウス。
黒のトレンチコートにワインレッドのマントを忍ばせ、赤い瞳で川面を見つめる。
「……まさかこの歳で、再会に胸をざわつかせることになるとはな」
そうぼやきつつ、指先にはしっかり保湿クリームが塗られている。
そのとき
足音。ヒールの小さな響きが、静寂を破るように近づいてきた。
アイゼンは振り返る。
そこに立っていたのは、黒いコートを羽織り、長い髪を夜風になびかせる女。
リディア・マルセリーヌ。
昔と変わらぬ緑の瞳が、淡く街灯に光る。
二人の距離は数メートル。
互いに言葉を探すように沈黙が流れる。
やがて、先に口を開いたのはリディアだった。
「アイゼン……まだあの時のままね」
冷ややかに、それでいてどこか懐かしさを含んだ声。
「リディア……」
おっさんの声がわずかに震える。胸の奥が、遠い記憶の痛みで締めつけられた。
彼女は微笑む。だがその笑みは冷たい刃を帯びている。
「相変わらず、優雅に装ってる。でも……今のあなた、MI6に捨てられた哀れなゴーストじゃなくて?」
アイゼンは一歩踏み出す。
「私は……真実を探している」
「真実?」
リディアが首を傾げる。
「ふふ、あなたが昔から追い求めていたのは“舞台”よ。自分を輝かせるための」
次の瞬間
川沿いの闇から、黒ずくめの武装集団が現れた。銃口が一斉に光る。
「やれやれ……ロマンチックな夜に、必ず邪魔が入るのはお約束か」
おっさんは深いため息をつき、マントを翻して身をかわす。
リディアも同時に動いた。コートの裾からナイフを抜き、敵の喉元に突き立てる。
その鮮やかな所作に、アイゼンの心が一瞬揺れた。
彼女は本当に敵なのか、それとも……。
セーヌ川のほとり、光り輝くエッフェル塔の下。
かつての恋人同士が銃火の中で向かい合う。
答えはまだ出ない。ただ確かなのは、運命の“デスゲーム”が再び始まったことだけだった。




