第2話 濡れ衣の魔族
モスクワ・クレムリンの大爆発は、世界を震撼させた。
炎と煙の映像は瞬く間にニュースで流され、その中で、赤い瞳を持つ魔族の姿が、はっきりと映し出されていた。
「これは……私か? いや、これは偶然写っただけだろう!」
アイゼンハワードは頭を抱え、ホテルの一室でニュースを見つめる。
だが報道は冷酷だった。
“クレムリン爆破犯はMI6の魔族エージェント”
そう断定するかのような論調で繰り返される。
イギリス本国。
政府は「MI6の関与を全面否定」と発表し、同時に極秘裏に“ゴースト・プロトコル”を発令。
MI6の存在そのものを“なかったこと”にし、アイゼンハワードには「懲戒免職」の命令が届いた。
冷たい一枚の文書。
そこに書かれた署名は、かつての仲間である上官のもの。
アイゼンハワードはしばし黙り込み、手にした書類を見下ろす。
「……わたしは爆破しとらんのに……また濡れ衣か」
重いため息がこぼれた。
彼は過去を思い出す。
魔界でも人間界でも、何度となく「厄介ごとに巻き込まれ」「疑いをかけられ」「損な役回り」を押し付けられてきた日々。
それでも耐えてきた。優雅を装い、笑顔でごまかし、時に皮肉を飛ばしながら。
だが今回は違う。
国家は彼を切り捨て、存在そのものを抹消しようとしている。
「……やれやれ、471年も生きてきて……最後は“無職のおっさん”に戻るとはな」
口元に皮肉な笑みを浮かべ、アイゼンハワードはマントを羽織り直す。
背後では、燃え落ちるクレムリンの赤光が窓に映っていた。
その光は、彼が背負わされた“濡れ衣”の重さを象徴しているように見えた。
捨てられた魔族のおっさん。
だが、彼はまだ終わっていなかった。
「爆破犯? 結構。ならば証明してみせよう……この老いぼれが、まだ踊れるということをな」
赤い瞳が闇に燃え、戦いの幕が上がる。




