第10話 最終対決と決着
嵐の夜、廃墟ホテルの闇を切り裂くようにオクターヴが駆け出した。
「待てぇぇっ!」
ルネの咆哮が響き渡り、サバイバルナイフの刃が揺れる。
カズヤとアルおじはその背を追い、軋む廊下を駆け抜ける。
崩れかけた階段を抜け、出口の扉を蹴破ると、そこは吹雪荒れる雪原だった。
オクターヴは足をもつれさせ、雪に転がり込む。
ルネはその背に馬乗りになり、刃を突き立てようと振りかぶった。
「やめろ、ルネ!」
アルおじの声が雷鳴を割く。
「奴は妹を殺した!今ここで終わらせなければ!」
ルネの叫びは凍てつく風に飲み込まれ、雪煙が舞い上がる。
だが、その瞬間。
アイゼンハワードの低い声が、氷の刃より鋭く彼の心を貫いた。
「過去を裁くには……今を生きる者の理が必要だ」
ルネの肩が震えた。
刃を握る手は怒りに震えながらも、涙で曇る。
「妹の声が、俺を呼んでいる……俺を、共に連れていこうとしている……」
雪原に膝をついたオクターヴは、吹雪にかき消されそうな声で泣き叫んでいた。
「誰も……誰も助けてくれなかったんだ……! 私は……私は悪くない!」
その声は、もはや哀れな獣の断末魔だった。
ルネは彼を見下ろし、ナイフを振り上げる。
だが。耳に届いたのは吹雪の音ではなかった。
《お兄ちゃん……》
かすかな少女の声が、確かに耳元で囁いた。
ルネの手が震える。
《もういいの……》
《こんなことで……私を縛らないで……》
「……セリーヌ……?」
ルネの瞳が大きく見開かれる。そこには血と怒りに燃えた瞳ではなく、涙に濡れた兄の顔があった。
「俺は……お前のために……!」
しかし次の瞬間、声は鋭く彼を突き刺した。
《復讐じゃない……生きてほしかった……》
ルネの膝が崩れ落ちる。
ナイフを握ったまま、震える手を胸へと押し当てる。
「……セリーヌ……すまない……」
振り下ろされた刃が、白い雪を紅に染めた。
血の温かさと共に、彼の口から最後の吐息が漏れる。
「これで……やっと……一緒に……」
アイゼンハワードが目を閉じ、深く息を吐いた。
カズヤは立ち尽くし、吹雪の中で赤く染まる雪を見つめた。
やがて静寂が訪れた雪原で、ただ風だけが悲しみを運んでいく。
カズヤは唇を震わせ、呟いた。
「人が人を裁くとき……その代償は、必ず血で払わされるんだな」
雪の彼方に霞む廃墟ホテルは、過去の亡霊を抱えたまま、ただ冷たく沈黙していた。
夜明けの気配が東の空にかすかに差し込む。
廃墟ホテルを巡る惨劇は、雪原の静けさの中で幕を閉じた。




