第6話 支配人の罪
廃墟ホテルのロビー。雨風が打ちつける音と、灯油ランプの揺らめく炎だけが空間を照らしていた。
ツアー参加者たちは互いに顔を見合わせながら沈黙を続けていたが、やがてクラリスが震える声で口を開いた。
「……セリーヌは、ここで働いていたんです。母はずっと言っていました。あの子は……支配人に目をつけられて、無理をさせられていたって……」
視線が一斉にオクターヴに集まる。老支配人の肩がびくりと震え、眼鏡の奥の瞳が揺らいだ。
「バ、バカな! あの小娘が勝手に消えただけだ! 私は何もしていない!」
声は怒鳴り声だったが、どこか怯えと動揺が混じっていた。
テオが机を叩いた。
「ならなぜ、記録を改ざんした! 帳簿に不自然な空白があった! あなたが何かを隠していたのは明らかだ!」
「ち、違う! あれは……あれは、ホテルの名誉のためだ!」
オクターヴの額には大粒の汗が浮かび、手が小刻みに震えている。
カズヤはじっと彼を見つめた。
「……“小娘”なんて呼び方をするんですね。まるで、人間として扱っていなかったように聞こえる」
「なっ……!」
その指摘に、オクターヴは言葉を詰まらせた。
クラリスが椅子を握りしめ、嗚咽を漏らす。
「母はずっと泣いていました……“あの子は使い潰された”って。支配人、あなたが」
「黙れ! 私に責任を押し付けるな!」
オクターヴの叫びは、薄暗いロビーに反響した。
そのとき、アイゼンハワードが低く言葉を落とした。
「……なるほど、確かにこやつは罪を抱えておる。だが――」
彼の鋭い眼差しが、ツアー参加者全員をゆっくりと見渡した。
「この血塗られた裁きの手を下しておるのは、別の者じゃ。オクターヴは獲物にすぎん」
場の空気が凍りつく。
疑惑の矛先はオクターヴに集中したまま、しかし同時に“真の復讐者”の影が、なお誰の背後にも忍び寄っていることを誰もが悟った。




