第5話 第二の犠牲者
夜半すぎ。
廃墟ホテルの暗い廊下に、不気味なざわめきが広がった。
「……マリアさんが、いない?」
クラリスの震える声に、全員が立ち上がった。
食堂に集まっていたはずのマリアの姿が消えていた。ロビーも、客室も探したが見つからない。
嫌な沈黙が、吹雪よりも重く胸にのしかかる。
「……下だ」
低い声でアイゼンハワードが呟く。杖を握る手に力がこもった。
「裁きは、地下で執行されたようだ」
地下室の扉を押し開けた瞬間、全員が息を呑んだ。
湿った空気と鉄錆の匂い。
ランタンの灯りが照らし出したものは、あまりに異様な光景だった。
壁に貼り付けられた、バラバラになったマリアの遺体。
血で濡れた髪が垂れ、目は虚空を見開いたまま。
「ひっ……!」
クラリスが顔を覆い、震えながら後ずさる。
ジャンヌと同じく、肉片は意図的に配置されていた。だが今回はさらに露骨に、床と壁に血で書かれた文字があった。
「沈黙する者、利用する者、すべて同罪」
「これはただの無差別な殺人ではない。復讐者は“罪の選別”をしておる……。次は誰か、それを考えねばならん」
アイゼンハワードが低く言った。
「復讐者は、ただ殺すのではない。過去を踏みにじった者に“裁き”を示している」
カズヤは血文字を凝視し、唇を噛む。
「マリアさんは……このツアーを企画した。セリーヌの事件を、心霊スポットの売りにして……」
言葉を続けられなかった。
ルネは険しい顔をし、吐き捨てるように言った。
「だから狙われたってことか。死人を食い物にした代償だ」
テオが青ざめた顔でノートに震える字を書きつける。
「復讐者は……“過去を隠した者、利用した者”を裁いている……。次は誰だ……?」
誰も口を開かない。
だが全員が感じていた。
この復讐の連鎖は、まだ終わっていない。
そして沈黙を破ったのは、クラリスのすすり泣きだった。
「……お母さんも、このホテルにいたの……もしやっぱり、私たち家族も“罪”に含まれているの?」
その言葉に、空気はさらに重苦しく凍りついた。
疑念と恐怖は、次なる犠牲を待ち構えているかのように、参加者たちを包み込んでいった。




