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【ランキング12位達成】 累計53万8千PV運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『カズヤと魔族のおっさんの事件簿:ミステリアスツアー殺人事件』

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第4話 疑念という刃のツアー客

翌朝。


廃墟ホテルの食堂には、昨夜の惨劇の影を引きずる沈鬱な空気が漂っていた。

大きな窓から吹雪が見え、氷のような風がガラスを震わせる。外界との繋がりを完全に断たれた空間で、参加者たちは互いの顔を疑わしげに見つめていた。


ジャンヌの遺体は布で覆われ、隅に安置されている。誰も近づこうとしない。

その前に立ったのは、アイゼンハワード。杖をコツンと床に打ち鳴らし、重い声を放った。


「諸君……亡霊の仕業ではない。

 ジャンヌを殺したのは、“この中の誰か”だ。

 ならば、まず確かめるべきは昨夜の所在。順に話してもらおう」


カズヤも頷き、参加者たちを見渡した。

「悲鳴が上がった直後、誰がどこにいたか……はっきりさせたいんです」


マリア(添乗員)

マリアは怯えたように背筋を伸ばした。

「わ、私は……ロビーにいました。皆さんの点呼を取っていて……。悲鳴を聞いてすぐに駆けつけたんです!」

 その声は切羽詰まっていたが、視線は泳いでいなかった。


オクターヴ(元支配人)

「わしは……」

 白髪を撫でながら、オクターヴは言い淀む。

「書斎におった。古い鍵の在処を調べようと思ってな。だが……それ以上は誰も証明できまい」

沈痛な面持ち。だがその奥に、まだ語られぬ秘密が潜んでいる気配があった。


テオ(歴史研究家)

「僕は二階の廊下と客室を調べていました。古い日記が見つかるかもしれないと思って」


ノートを握る手が固く震えている。

「この館の過去を知れば、事件の真相にも近づけると……」

その言葉は必死さと同時に、どこか焦燥の色を帯びていた。


クラリス(元従業員の娘)

 「私は……ランドリールームにいました」

クラリスは俯き、唇を噛む。


「母が働いていた場所……。事件のあと、うちの家族は破滅したんです」

 涙がぽろりと落ち、彼女の声はすすり泣きにかき消された。


ルネ(バス運転手)

最後に、ルネが腕を組んで低く言った。

「オレはバスにいた。機材の点検だ。……それ以上でも、それ以下でもない」

 短い言葉に、拒絶の気配がこもっていた。


「結局、誰も互いを証明できない……」

 クラリスが吐き出すように言った瞬間、テオが鋭く睨んだ。


「君こそ怪しいじゃないか。母が働いていた? それを口実に、この場所に復讐を仕掛けているんじゃないのか!」


「違う!」

クラリスの叫びは震えていたが、真実かどうかは誰にも分からない。


マリアが青ざめた顔で両手を広げた。

「やめてください……! これ以上疑い合えば、みんなが壊れてしまう!」


アイゼンハワードは目を細め、低く呟いた。

「いずれにせよ、殺人者は生きておる。そしてその裁きは始まったばかりじゃ」


カズヤが真っ直ぐに皆を見据える。

「だから僕たちは、逃げずに真実を見極める。誰がこの館の闇を引き継いでしまったのか……必ず突き止めます」


吹雪が窓を揺らし、薄暗い食堂に冷たい影が落ちる。

互いの目には、疑念という刃がすでに突き立っていた。


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