第3話 廃墟の探索と不審な痕跡
廃墟ホテルの暗い廊下に、カズヤとアルおじ(アイゼンハワード)の足音が静かに響く。壁の剥がれ落ちた壁紙、割れた窓ガラス、雨漏りによる水たまり。冷たい風が館内を吹き抜け、彼らの息を白く染めた。
「……どうやら、夜だけでなく昼間も人を寄せつけない場所だったようだな」
アルおじは手袋をはめ直し、慎重に足を進める。
カズヤは天井から垂れ下がる梁の陰に目を凝らすと、微かに埃を蹴る足跡が残っていた。
「おじさん……誰か、最近もここに来た形跡がある」
「ふむ……。だが死人の仕業ではない。生きている人間が裁きを始めているのだろう」
ロビー
ロビーの大理石はひび割れ、落ちたシャンデリアが静かに床に転がっている。埃に覆われたソファの下には古びた手紙の破片。カズヤが拾い上げると、宛名だけがかすれた文字で残っていた。
「……ここも、誰かが通った跡がある」
アルおじは床の埃の乱れを指でなぞりながら言った。
待合室
かつての宿泊客がくつろいだ待合室には、色褪せた雑誌と、倒れた椅子の残骸。窓際に掛かった古いコートが、人影のように揺れる。風に煽られ、館全体が低くうなっているかのようだ。
「……妙な気配がする」
カズヤの肩越しに、アルおじの視線が窓の外を走る。
「注意深く観察するんだ。何かを見逃してはいけない」
客室
廊下を上り、いくつもの客室を覗く。半開きの扉の奥には、古びたベッドと引き出しの中に日記や鍵。カズヤは一冊の日記を手に取り、ページをめくる。
「……セリーヌという少女の記録だ。失踪した当時、ここに泊まっていたらしい」
アルおじは顔をしかめ、帳簿を確認する。
「支配人オクターヴ、そして当時の客ジャンヌ……館には古い因縁がある」
食堂
長テーブルに散らばる朽ちた皿や破片。壁のメニューは色褪せ、カーテンが風に揺れて亡霊の手のように揺れる。カズヤは床の埃の乱れを指さした。
「……ここも通った跡がある。しかも足取りが急だった」
「……誰かが、この館で何かを探しているのだろう」
ランドリールーム
錆びた洗濯機、乾燥機、床に散らばる衣類。カズヤは古い帳簿と新聞の切り抜きを見つける。
「……10数年前の記事だ。ホテルで働いていた少女セリーヌの失踪……」
記事にはオクターヴとジャンヌの名が並ぶ。アルおじは低くつぶやく。
「生きている者が裁きを始めている……私たちはその痕跡を拾ったに過ぎない」
地下室
地下室の扉を押すと、湿気と埃が立ち込める。棚には小箱、折れた人形、古い指輪が散らばる。カズヤは指輪を手に取り、写真記事と見比べた。
「……セリーヌのものに似ている」
突然、冷たい風が吹き、扉が音を立てて閉まる。二人は息をひそめ、互いに目を合わせた。
「気を抜くな……館は、まだ語り終えていない」
アルおじの声が響き、カズヤは小さくうなずく。
廃墟ホテルは、ただの心霊スポットではなかった。過去の罪と復讐の痕跡が、埃や古い帳簿、乱れた床、血痕となって生き続けている。そして館は静かに、しかし確実に次の事件へと二人を誘っていた。




