第1話 不気味な旅の始まり
バスの車窓を打つ雪は、夜の闇をいっそう深くする。
停留所に停まったツアーバスの扉が重々しく開き、カズヤとアルおじ、アイゼンハワードが乗り込むと、すでに数名の参加者が座席に腰を下ろしていた。
添乗員のマリアが立ち上がり、柔らかい笑みを浮かべて二人を迎える。
「ようこそ、“心霊スポットミステリーツアー”へ。これから皆さまにご一緒いただくのは、山奥の廃墟ホテルで、かつて少女失踪事件があったと噂される場所です」
参加者たちは一様にざわめいた。
【ツアー参加者の顔ぶれ】
ルネ:無口な中年のバス運転手。鋭い目つきだが職務には忠実。
マリア:ツアー添乗員。凛とした態度だが、どこか影を背負っている。
オクターヴ:かつてホテルで支配人を務めていた老紳士。沈痛な面持ちで、何か言いたげだが言葉を飲み込む。
ジャンヌ:華やかな服装をした裕福な未亡人。場の空気を読まず大げさに怖がる。
テオ:若き歴史研究家。古文書や土地の伝承に詳しく、常にノートに記録を取っている。
クラリス:元従業員の娘。ホテルで育った記憶があるらしいが、多くを語らない。
カズヤ:巻き込まれ体質のわたしの孫。冷静だが皮肉屋。
アイゼンハワード(アルおじ):魔族のおじさん。重厚な雰囲気をまといながらも、時折とぼけた言葉で周囲を和ませる。
「いやあ、霊なんて出るんですの? 本当に?」
ジャンヌが大げさに身をすくめると、車内の緊張感が一瞬緩む。
そのとき、アルおじが静かに呟いた。
「ゾンビはおるが、霊などおらん」
その低く響く声に、思わず参加者たちの顔に微笑みが浮かんだ。場の空気がふっと和らぐ。
カズヤは呆れ顔で肩をすくめたが、内心少しだけ安心した。
やがてバスは山道へと入っていく。街灯のない漆黒の闇、雪の降り積もる森を抜けると、やがて朽ち果てた巨大な建物が闇の中に姿を現した。
廃墟ホテルへ。
ひび割れた外壁と割れた窓。黒い影のように聳えるその姿は、噂に違わぬ不気味さを放っていた。
参加者たちはそれぞれに不安を抱きながら降車し、懐中電灯を手にホテルの中へと足を踏み入れる。
廊下の空気は湿り気を帯び、床板の軋む音がやけに大きく響いた。
古びたシャンデリアが風に揺れ、まるで亡霊が通り過ぎたかのように影が震える。
その時。
「デキァアアアア……!」
廃墟の奥から、甲高い「悲鳴」が突如として響いた。
参加者全員の顔から血の気が引く。
マリアが慌てて声を上げる。
「悲鳴!だ、誰ですか!? 今のは……!」
カズヤは息を呑み、アルおじは眉をひそめた。
雪深い山奥のホテル。外界との連絡は絶たれた。
彼らはすでに、逃げ場のない「殺人の舞台」に足を踏み入れてしまったのだ。




