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完結【51万8千PV突破 】運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『カズヤと魔族のおっさんの事件簿:ミステリアスツアー殺人事件』

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プロローグ

雪をかぶった街路樹の並木を、黄昏の冷たい風が吹き抜けていた。

人通りの少ない駅前広場で、カズヤは両手をポケットに突っ込み、電車の到着を待っていた。


その横で、背筋をまっすぐに伸ばした大柄なおじさん、アイゼンハワードが、深紅のマントの裾を翻しながら立っていた。

人々はちらちらと彼を見たが、その異様な存在感に声をかける者はいない。カズヤにとっては慣れた光景だった。


「なあアルおじ。お前みたいな魔族の大男が駅前に突っ立ってるとさ、視線が痛いんだけど」


「ふん、儂は魔族といえど紳士じゃ。人間の目など慣れたわ」


 軽口を交わしていたそのとき。


「失礼、あなた方……」


凛とした声が背後から響いた。振り向くと、白いコートをまとった若い女性が立っていた。


淡い金髪に、どこか影を秘めた瞳。


「私の名はマリア・ローゼン。旅を楽しむ方々を案内する、ツアーの添乗員です」


 彼女は丁寧に一礼し、二人へと小さな封筒を差し出した。


「よろしければ、このツアーにご参加いただけませんか? 行き先は、山奥の廃墟ホテル。かつて少女失踪事件があった曰く付きの場所です」


その言葉を聞いた瞬間、カズヤの背筋に冷たいものが走った。

アルおじは眉を吊り上げ、低く笑った。


「ほう……霊の噂か。くだらん。だが、ゾンビはおっても幽霊など存在せんぞ」

「……アルおじ、そういう問題じゃなくて」


 マリアは微笑んだが、その瞳はどこか張り詰めていた。

まるで“行かざるを得ない理由”を胸に隠しているかのように。


「これは単なる観光ではありません。――過去の影を、暴く旅になるかもしれません」


駅前広場を吹き抜ける風が、三人の間を裂くように吹き荒れた。

カズヤは思わずマリアの手に握られた封筒へ視線を落とした。そこには、黒いインクで奇妙な紋章が描かれていた。


まるで、招待状そのものが過去からの呪いのように。


「行くのじゃ、カズヤ」


「……え?」


「この匂い、ただの心霊スポットではない。血と怨念の臭いがする」


アイゼンハワードの瞳が、闇の奥を見透かすように光った。

そしてカズヤは悟った。これは偶然の出会いではない


必然なのだ、と。


やがて、遠くからツアーバスのヘッドライトが白く雪を照らした。

事件の幕が上がると同時に、彼らの“呪われた旅”が始まろうとしていた。



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