第11話 審判の光
崩壊しかけた塔の最上階。
勇者たちの仲間は、血を流し、うずくまり、息も絶え絶え。
堕天使アザリエルは、静かに浮かんでいた。
黒く巨大な4枚の翼を広げ、その双眸は氷のように冷たい。
一切の慈悲を感じさせない、神をも捨てた者の目だった。
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名前:アザリエル(黒魔術師)
レベル:70
体力:9000
攻撃:820
防御:999
素早さ:999
魔力:2800
賢さ:800
運:1
この世界でかつて天界に属していたが、人間を軽視するあまり堕ちた存在。巨大な翼と闇の魔力を持つ。
別名: 堕天使アザリエル
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「《エンドレス・オブ・ジエンド!!》これが真なる世界の終末だッ!!」
咆哮と共に、塔の壁が爆音を上げて崩壊する。
闇色の魔法の衝撃波が、竜巻のように広がり、周囲一帯を薙ぎ払った。
塔の天井が裂け、巨大な空洞から曇天の空が露わになる。
「くっ、何て力だ……!!」
俺は、倒れ込んだアルベルトのもとへ走った。震える手で「やくそう」を塗り込む。
【勇者アルベルトの体力が20回復しました。】
「……ありがとう、リスク。まだ、闘える……!」
顔を上げたアルベルトの額から汗が伝い、目は揺るぎない光を宿していた。
「油断するな、次は来るぞ……!」
俺は毒針を握り直し、アザリエルに向かって突進する。
「ダメージなんてなくても、気を逸らせればいい……!」
チクッ、チクッ……!
「チクチクチクチク……うるせぇ蚊が……」
アザリエルの眉間に深い皺が寄る。イラついている。
その瞬間、アザリエルの漆黒の瞳がシスターマリアへ向いた。
「邪魔をするな……!」
詠唱を始めたマリアに、アザリエルが歩を進める。
「シスターマリア!」
俺は必死でアザリエルの脚に針を連打した。
「チクッ、チクッ、チクッ……!」
「うぜえええッ!!この蚊ごときがぁああああああああああ!!」
怒りに任せて俺に怒りの鉄拳が飛んできた。
その瞬間、
「――魂の安寧をもたらす光、呪いを鎮める鎮魂の輝き――」
マリアが両手を天に掲げ、目を閉じ、静かに祈りの言葉を紡ぎ出す。
その姿はまるで聖母のようで、凛とした神聖な光が彼女の周囲に浮かび始めた。
「汝、迷いし魂よ……闇より解き放たれ、救いの光に包まれん――」
空気が張りつめる。全員が言葉を飲んだ。
「我が祈りと共に降り注げ……
《ルクス・レクイエム》!!」
その刹那、天井がまばゆい光に裂けた。
天空から黄金と白銀に輝く巨大な教会がゆっくりと舞い降りてくる。
その建造物はいくつも塔の中空に浮かび、ゆっくりと回転し始めた。
ゴォォォォォン……ドォォォォォン……
重厚な鐘の音が響き渡る。
その音は空間を震わせ、魂にまで届くような響きだった。
透明感のあるソプラノ。荘厳なバスの重低音。
それはまるで“天の式典”。
ゴォォォォォン……ドォォォォォン……
ゴォォォォォン……ドォォォォォン……
「うるさいっ! うるさいうるさい鐘がああああ! 俺の頭に響くうううぅ!」
アザリエルが頭を抱えて呻く。
黒い翼をばさばさと振り乱し、もがくように宙を飛び回る。
その様子を見て、俺は思わず叫んだ。
「効いてるぞ! シスターマリアの聖なる祈りの魔法が、奴を押してる!」
だが
「ぎゃあああああ! 朝から鐘が煩いっての! ぎやあああ!」
遠くで悲鳴が上がった。ベットで寝ていた黒魔術師マーリンだった。
「なに……マーリンにも効いてるのか!?」(魔族だからだ)
「鐘止めろ! マジで頭に響いてくるんだけど!!ぶちぎれたわ!マジで許さないから!!」
マーリンは苛立ちに満ちた表情で、杖を高く掲げた。
「その魔法……まさか、それを使う気か……!」
「赤き破滅の炎よ、我が命を糧として顕現せよ──
灼き尽くせ、世界のことわりごと!!」
「《爆裂魔法・クリムゾンフレア》!!」
瞬間、塔が震え、大気が軋んだ。
空間が歪み、地鳴りのような音が響き渡る。
全員が身を強張らせた。
「滅びろ、世界の終焉のエピローグ!!」
爆心地から真紅の光が収束し――
ボゥッッ!!ゴォォォォオオオオ!!!
閃光と爆音。紅蓮の炎が放射状に広がり、空気すら焼き尽くす。
まるで世界が燃え始めたかのようだった。
「があああああああああああッ!!」
アザリエルが絶叫しながら炎に包まれ、翼を焦がされ、天空から墜ちてくる。
その瞬間、
「アルベルト!! 今だ!!」
「ホーリー……スラァァアアッシュ!!」
勇者アルベルトの剣が聖なる輝きを帯び、弧を描いた。
ゴシュッ!!
アザリエルの首が切断され、黒い羽根が舞った。
――静寂。
しばらくして、誰かが震える声で言った。
「……勝った……」
俺たちは、堕天使アザリエルに勝利したのだ。