第9話 資金の隠し口座
薄暗い地下の通路を抜け、アイゼンハワードはカジノ裏手の制御室へとたどり着いた。
壁一面に光る無数のモニターと複雑な配線が張り巡らされた機械室。
機械の低いうなり声と冷却ファンのざわめきが耳に響き、空気は冷たく重い。
彼は息を殺しながら操作パネルへ近づき、端末の画面が青白く光り、暗号解除が始まる。
暗闇の中、アイゼンハワードはデータ端末に手をかけ、最後のアクセスコードを入力した。そのコードは、間違いなくリディアから受け取ったものだった。
だが、直後に鋭い警報音が倉庫内に鳴り響いた。
「ウィィィィン!ウィィィィン!」
赤い非常灯が点滅し、空気が一気に張り詰める。
「くそ……!」
アイゼンは即座に端末の画面を見る。
「アクセスコードが誤作動……?」
頭の中で、リディアの冷たい微笑みがよぎった。
「まさか……あの女、裏切っていたのか?」
その瞬間、携帯型の通信機が震え、冷徹な男の声が響いた。
「こちら、コードネーム:ヴェール・キング。
我々はお前の全行動を把握している。リディアは既に我々の手中にある。裏切り者の処遇は我々が決める」
アイゼンは硬く拳を握りしめ、声を震わせながら答えた。
「彼女を傷つけるな……交渉の余地をくれ」
ヴェール・キングの声は一層冷たく響いた。
「交渉?甘いな。命乞いなど認めん。
今すぐ降伏しろ、さもなくばリディアは命を落とす」
アイゼンは息を整え、静かに返す。
「お前が何を企んでいるのか知らんが、俺は簡単には負けん。
リディアの命は俺が守る。それが俺の誓いだ」
通信が切れると、警報音だ怪我を制御室を包み込む。
アイゼンは呟いた。
「リディア、なぜ……お前が裏切ったのか?それとも最初から罠だったのか……」
彼は目を閉じ、深く息を吐いた。
「どちらにせよ、ここで倒れるわけにはいかない。
真実を暴き、奴らを止めるまで」
薄暗い制御室の中で、彼の背筋に冷たい覚悟が走った。
薄暗い制御室の空気がさらに重くなった。
警報のサイレンが断続的に鳴り響き、赤い非常灯が激しく点滅している。
アイゼンハワードはゆっくりとモニターから目を離し、拳を握りしめた。
「リディア……」
その声には怒りと悲しみ、そしてまだ消えぬ信頼のかけらが混じっていた。
通信機から再び声が響く。
「時間切れだ、降伏しろ。そうすれば彼女は無事だ」
アイゼンは一瞬、躊躇したが、すぐに決意を固めた。
「お前たちの脅しには屈しない」
そうつぶやき、手元の端末を操作する。
暗号解除の画面が再び点灯し、最後の解析が始まる。
だが、背後から重い足音が近づき、扉の向こうに複数の銃声が響いた。
「ヴェールの増援が来る……時間がない」
アイゼンは咄嗟に周囲を見回し、非常用の小型煙幕を手に取った。
「この煙が切り札だ」
口元に煙幕を当て、白煙の装置を起動すると、白い煙が瞬時に部屋を満たし、視界を奪った。
その瞬間、彼は隠し扉のレバーを引き、秘密通路へと滑り込んだ。
煙と警報音の中、彼の心にはただ一つの思いが燃えていた。
「リディア……絶対に助け出す」
豪華なカジノの裏側で、果てなき戦いが続いていた。




