第4話 カジノ・ロワイヤル決勝戦
エレベーターが静かに停止し、真鍮の扉が左右に開く。
その瞬間、アイゼンハワードの視界いっぱいに広がったのは、宝石の中に閉じ込められたかのような円形のホールだった。
天井から吊るされた巨大なクリスタルシャンデリアは、無数の光の粒を床に散らし、磨き上げられた黒大理石がそれを鏡のように反射している。
壁面は曲線を描きながら、金箔と漆塗りのパネルで覆われ、中央の円形テーブルをまるで玉座のように囲んでいた。
テーブルの表面は深い緑のフェルトで覆われ、そこにだけ一点、冷たいスポットライトが落ちている。光と影の境界に座るプレイヤーたちの表情は半分闇に沈み、半分だけがきらめく。それはまるで、この場に集まった者の“二重の顔”を象徴しているかのようだった。
周囲の観覧席には、世界各国の裏社会の重鎮たちが並び、ワインやシャンパンのグラスを手にしながらも、その目は笑っていなかった。
遠くの窓からは火山島ヴルカーノの夜景が望め、時折、火口の赤い閃光が差し込んで会場を不吉に染める。
そして、テーブル中央には、山のように積み上げられたチップタワーと、金塊や宝飾品のディスプレイケース。
これが、この夜ただ一人の勝者が手にできる“莫大な富と権力の象徴”だった。
ディーラー(Dealer)が、静かに告げる。
「Gentlemen… welcome to the Final Table of Casino Royale.」
その声は氷のように冷たく、しかし熱い血を呼び起こす。
アイゼンハワードは深く椅子に腰を下ろし、カードの感触を確かめるように指
先でテーブルを叩いた。
ここが、最後の戦場だ。
【参加者】
①アレクセイ・モロゾフ:ロシアン・マフィアの冷酷な幹部。
②リー・ジャン:中国系武器商人。計算力と記憶力は人間離れ。
③サイード・アル・ファリド:中東の石油王の甥。資金力と強気な勝負で知られる。
④ジョルジオ・フェラーリ:イタリアンマフィアの若きドン。感情的で短気。
⑤アイゼンハワード・ヴァル・デ・シュトラウス:MI6最古参の魔族スパイ。
第1ハンド:探り合い
アイゼンハワードの手札は、ハートのキングとクラブのジャック。
場にはハートの10、クラブのクイーン、スペードの2。
ストレートまであと一枚。
彼は小さくベット。
ジョルジオが即座にレイズしてくる。
「ブラフだな」
そう読んだアイゼンハワードはリバーまで粘る。
最後にスペードの9が落ち、ストレート完成。
ジョルジオは笑顔でオールインするが、カードを開いた瞬間、その笑みが固まった。
第3ハンド:サイドとの対戦
手札はスペードの7とハートの3。
だがフロップでスペードが三枚並ぶ。
ここでアイゼンハワードはあえて大きくベットし、フラッシュを装う。
サイードが慎重にコールするも、ターンでスペードのエースが落ち、彼の表情が強張る。
実際にはフラッシュは完成していないが、リバーでも強気を貫き、サイードを降ろしてチップを奪う。
中盤:リー・ジャンとの頭脳戦
リーの手札は分からない。
しかし彼は、相手のベットパターンを読み取り、僅かな癖を突く名人だ。
フロップで場にハートが三枚並び、リーは静かにベット。
アイゼンハワードはポーカーフェイスのままコール。
ターンでクラブのキングが落ち、手札のキングと合わせてツーペア。
ここで大きくレイズをかけ、リーを試す。
リーは一瞬だけ視線を逸らし――フォールド。
わずかな動揺が、アイゼンハワードの勝利を決定づけた。
終盤:アレクセイとの一騎打ち
残るプレイヤーはアレクセイとアイゼンハワード。
手札はハートのキングとダイヤのキング。
フロップでさらにキングが落ち、スリーカード完成。
アレクセイは冷徹にオールイン。
観客席が息を呑む中、アイゼンハワードは迷わずコール。
ターン、リバーともにアレクセイを助けるカードは出ず
勝負あり。
巨大なチップタワーが、音を立ててアイゼンハワードの前に滑り込む。
アイゼンハワードがカジノポーカー大会で優勝をした。
優勝者へ副賞の黒い封筒が差し出される。
「VIPポーカールームへようこそ」
金の文字が光を受けて不吉に輝いた。
その扉の奥には、さらなる危険と陰謀が待っていた。




