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【ランキング12位達成】 累計53万PV運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『カズヤと魔族のおっさんの事件簿:オルゴールは死を奏でる』

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第3話 スイートルームでの諜報戦

スイートルームの扉が開くと、海に浮かぶ月光がガラス張りの壁越しに差し込み、白い大理石の床を照らしていた。


遠くの火山が赤く噴煙を上げる。

豪奢な部屋の香りは、上質な香水とわずかな金属の匂い。

それが、アイゼンハワードの警戒心を一瞬で研ぎ澄ます。


「エバグリーン、カーテンを閉めろ」

彼は低く告げ、持ち込んだアタッシュケースを開いた。

中にはMI6製の多波数スペクトルスキャナーと、小型の魔導式探査球。


スキャナーが青い光を放つたび、壁やシャンデリアの中に赤い点が浮かび上がる。

「…盗聴器、カメラ、赤外線センサーまで仕込まれているな」

エバグリーンが一つ外すたび、彼女の細い指先がスムーズに動く。


その姿に、かつてのMI6訓練時代がよみがえる。だが感傷に浸る余裕はない。


テレビ台の裏から取り出した小さな黒い装置には、銀色のロゴが刻まれていた。"ヴェール"。

あの暗殺者のカードと同じだ。


コンコン

深夜、こんな時間に訪問者などありえない。

エバグリーンがサプレッサー付きの魔導拳銃を構え、アイゼンハワードがドアを開ける。


そこに立っていたのは、白のドレスに身を包んだ女。

滑らかな金髪、赤い唇、そして彼の記憶を凍らせる名前。


挿絵(By みてみん)


「こんばんは、アイゼンハワード」

リディア・マルセリーヌ。

かつて彼の心を焦がし、そして裏切った女。


リディアは、迷いなく部屋に足を踏み入れた。

シャンパンの栓を抜き、グラスに注ぎながら微笑む。


「ヴェールの動きを止めたいのなら…私の情報が必要よ」


エバグリーンの視線は冷たく、手は銃から離さない。


「あなたの情報が、どれだけ命取りになるかは知ってるわ」

その台詞に、リディアは口紅の端を上げた。


「選択肢は二つ。私を信じるか…それとも、あなたの命を賭けるか」


その瞬間、部屋の奥から低い駆動音が響いた。

壁のパネルがスライドし、隠し扉が開く。そこから現れたのは、黒い装甲服に身を包んだヴェールの突入部隊。


アイゼンハワードはシャンパンのグラスを置き、ため息をついた。

「やれやれ…夜はまだ長いらしい」


黒装甲のヴェール部隊がスイートルームに雪崩れ込む。

遮光カーテン越しに、火山島の赤い光がちらつき、硝煙の匂いが混じる。


アイゼンハワードはソファを横倒しにして即席のバリケードを作る。

エバグリーンは魔導拳銃を構え、的確に一人ずつ敵を沈める。


リディアはドレスの裾を裂き、太ももに隠していた小型魔導ナイフと短銃を抜いた。

「私が敵の注意を引くわ。あなたたちは後ろから撃ちなさい」


バルコニー側からもロープで降下する敵が現れ、ガラスが粉々に砕ける。

リディアは華麗に回転しながらナイフを投げ、降下してきた兵士のワイヤーを断ち切った。


兵士が悲鳴を上げて海へ落ちる。


背中合わせになったアイゼンハワードとリディア。

かつては恋人同士、今は互いに銃口を向け合う立場


そのはずだった。


「どうしてここに?」


「あなたを生かすためよ。…それと、あのポーカーの勝者が世界を変えることを、誰より知っているから」


敵の突入が激しくなり、弾丸がバリケードを貫通し始める。

エバグリーンが短く叫ぶ。


「あと二分で制圧される!」


リディアはポケットから小型のデータチップを取り出す。

「これが私の真意。ヴェールの資金ルートと、カジノ・ロワイヤルの裏取引全てが入っている」


アイゼンハワードは一瞬、彼女の瞳を見つめ、嘘を探そうとする――だがその視線は真剣だった。


リディアが壁の装飾パネルを押すと、隠し非常口が開いた。

三人は火山の噴煙が見えるバルコニー伝いに走り出す。

背後で、ヴェール部隊がスイートルームを制圧する音が響く。


バルコニーから階下のプールへ飛び込み、夜の水面が大きく弾けた。

水中でアイゼンハワードは思った

彼女は裏切り者か、それとも、まだ信じられる女なのか。


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