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【ランキング12位達成】 累計52万6千PV運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『カズヤと魔族のおっさんの事件簿:オルゴールは死を奏でる』

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第9話 犯人はこの中にいる。

【大広間】


重い両開きの扉が軋みながら閉じられた瞬間、館の空気が一段と冷え込んだ。

吹き抜けから差す月光が、集められた面々の表情を青白く照らす。


暖炉の火は弱く、時折、薪が弾けて鈍い音を立てる。

その音にすら、全員がわずかに肩を震わせていた。


カズヤは暖炉の前に立ち、ゆっくりと視線を巡らせる。

クラウディア、レオン、イザベル、フロランス、ギヨーム、エドゥアール

全員がこの場に揃っている。


「犯人は、この中にいる」


カズヤの一言に全員が沈黙が落ちる。


フロランスは顔をこわばらせ、イザベルは唇を噛み、レオンは眉を上げたまま固まっていた。ギヨームだけは、無表情でカズヤを見返す。


「まず、このオルゴールだ」

カズヤは机に置かれた古いオルゴールを指先で押し、ゼンマイの軋む音を響かせる。

「事件当夜、このゼンマイは異常にきつく巻かれていた。

 鐘が鳴る瞬間に連動して、遺体を落下させる仕掛けを動かすためだ。

 この構造は、時計技師マルク・ラグナスの知識がなければ作れない」


クラウディアが眉をひそめる。

「……マルクが犯人だというの?」


「違います」

カズヤは即座に首を振る。

「マルクは脅されていただけだ。そして、用が済むと殺された」


アイゼンハワードが封筒を机に置く。

「隠し部屋から見つかった“罪の記録”。修道院から追放された少女と、その遺族の名が書かれているギヨーム、あんたの家だ」


その名が呼ばれた瞬間、暖炉の火がぱちりと音を立てた。

ギヨームは瞬きひとつせず、ただ視線を落とした。



■■■回想事件前夜


夜の厨房。

外は雪が降りしきり、窓に吹きつける風の音が低く響く。

ギヨームは煮込み鍋の前に立っていたが、その背に重くのしかかる視線を感じ、振り向いた。


クラウディアが、黒いショールを肩にかけ、ゆっくりと近づいてきた。

手には、古びた封筒が握られている。


「ギヨーム……これを受け取りなさい」

差し出された封筒は、薄く、軽かった。


「……これは?」


「手切れ金よ。これで全て終わりにしましょう。

 あなたと、過去の……あの忌まわしい血の繋がりの話も、二度と口にしないで」


ギヨームは封筒を開け、中の札束を見た。

それは、わずかばかりの金。

妹の命と、一族の名誉と、長年の屈辱の代償としてはあまりにも軽すぎた。


「……これで、終わり?」

声が低く、掠れていた。


クラウディアは目を逸らし、冷たく言い放った。

「そう。あなたはもう必要ないの」


その瞬間、ギヨームの胸の奥で、長く燻っていた憎悪が音を立てて燃え上がった。妹の顔、雪の中で閉じた瞳、凍りついた手、今までの全てが忌まわしい記憶が鮮明によみがえった。


ギヨームはゆっくりと封筒を閉じ、無言で鍋の脇に置いた。

その手が、ほんのわずかに震えていた。


■■■


回想が途切れ、現実の大広間に戻る。

カズヤの声が鋭く響いた。


「塔の階段に残された足跡、雪に混じった土の粒、踊り場で見つかった手袋の切れ端 全て、ギヨーム、あなたの衣服の繊維と一致した」


フロランスが震える声で言う。

「……そんな、嘘でしょう……」


イザベルは目を見開き、レオンは吐き捨てるように「狂ってる」とつぶやいた。


ギヨームは静かに顔を上げ、冷たい笑みを浮かべた。

「……あの女が俺にくれたのは、わずかな金と、終わりの宣告だけだった。

 だから、俺はあの女に終わりを与えたんだ」


クラウディアは椅子の背にもたれ、かすかに震える声を漏らした。

「ギヨーム……」


「俺の裁きは終わった。あとは、俺が行く番だ」

ギヨームは懐から小さな銀のナイフを取り出した。

アイゼンハワードが一歩踏み出すが、止めるより早く刃が彼の喉を切り裂く。


赤い筋が広がり、床に崩れ落ちるギヨーム。

誰もが声を失い、ただ暖炉の火だけが揺らめいていた。


遠くで鐘が鳴った過去と罪を同時に告げるように。



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