第8話 静寂の証拠と微かな足跡
薄雪が静かに降り積もる屋敷の庭。カズヤとアイゼンハワードは、先日の隠し部屋の発見を胸に再調査に臨んでいた。
「まずはオルゴールからだ」
カズヤが慎重に古びたオルゴールを手に取る。
ゼンマイの巻き具合を調べると、不自然にぎゅっと巻かれていることに気づいた。
「これは犯人が事前にセットしていた可能性が高い。通常の使い方とは明らかに違う」
隣でアイゼンハワードが頷く。
「オルゴールの終わりに合わせて、何かの仕掛けを動かそうとしていたのだろう」
次に二人は時計塔の機械室へ向かい、マルク・ラグナスが設計した鐘の仕掛けを詳しく調べた。
「この滑車やワイヤーの配置は複雑だ。マルクの手によるものだが、彼は何者かに脅されていたという証言もある」
カズヤは無言で小さな傷跡や細かな歯車の欠けを確認した。
「マルクの死は単なる事故ではない、殺害の可能性が濃厚だ」
中庭の雪を調べていると、カズヤが何かを拾い上げた。
「これは……ギヨームの手袋の切れ端だ。塔の階段で発見された」
ギヨームは厳しい表情で口を閉ざし、その話題を避けようとする。
「何か隠しているようだな」
とアイゼンハワードが眉をひそめた。
フロランスはクラウディアの監視役だが、その態度はどこか秘密めいている。
彼女の細かな証言は曖昧で、時折視線を逸らす。
イザベル・ヴェルネの動きも謎に包まれている。
かつての修道院の秘密と繋がる過去の影がちらつき、彼女の心の奥底に何かが隠されているのは明らかだった。
レオンは密かにカジノ通いを続けていることが判明し、莫大な財産を巡るトラブルが動機の一端として浮上していた。
「彼の笑顔の裏には、多くの秘密が隠されている」
カズヤが呟く。
アイゼンハワードは屋敷の面々を静かに見渡しながら言った。
「この屋敷には、嘘と偽りが渦巻いている。真実は、ほんのわずかな証拠の断片から姿を現すものだ」
冷たい風が吹き抜け、鐘の音が遠くで響く。
証拠の欠片が揃い始めるにつれ、犯人への糸口が確かに見え隠れしていた。




