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【ランキング12位達成】 累計56万6千PV 運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『カズヤと魔族のおっさんの事件簿:オルゴールは死を奏でる』

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第5話 偽りの事故、隠された殺意

夜明けの光が、塔の石壁を鈍く照らしていた。

中庭の雪はまだ踏み荒らされておらず、ただ一点だけ、深く抉られた赤黒い染みがある。


カズヤはその跡にしゃがみ込み、雪を指先で掬った。

「……落ちた衝撃で骨が折れたのは、首と片腕だけ。他はほとんど損傷がない。生きて落ちた人間の壊れ方じゃない。」


アイゼンハワードが目を細める。

「つまり、先に殺され、死体を落としたと。」


カズヤは無言でうなずいた。

「首の痣は絞殺の痕だ。これは事故じゃない。」


二人は塔に向かう。

扉は固く施錠され、鍵は室内の机に置かれていた。

「この通路しかない」という前提に違和感を覚えたカズヤは、壁を叩きながら歩く。

古い修道院時代の図面を脳裏で組み合わせると、ある一点で足が止まった。


「……壁の奥に空洞がある。修道女たちが使っていた隠し回廊だ。」


その瞬間、頭に浮かんだのはマルク・ラグナスの顔だった。

塔の修復を担当し、内部構造を熟知している時計技師。


「彼なら、この通路を知っていてもおかしくない……」


カズヤとアイゼンハワードは、マルクの部屋の扉を叩いた。

返事はない。

扉の隙間から、油と鉄と――わずかに甘い金属臭が漏れ出している。


嫌な予感を覚え、静かに扉を押し開けた。


部屋の中は薄暗く、時計の振り子の音だけが規則的に響いていた。

その中央、椅子に腰掛けたままのマルクがいた。

頭は少し後ろに傾き、片手は机の上に置かれたまま動かない。

首筋には赤黒い線。


刃物ではなく、細い鋼線の締め跡。


机の上には一枚の設計図と、一通の封書。

封を切ると、中から出てきたのは震える文字で書かれた一文だった。


【すべては私がやりました。】


カズヤは眉をひそめる。


「……おかしい。筆跡はマルクのものに似せてあるが、違う。何より、彼は“やりました”なんて言葉を使わない。」


アイゼンハワードが封書の端を指でつまむ。

「つまりこれは……彼を犯人に仕立て上げるための偽造品だ。」


設計図の端には小さな歯車が置かれていた。

表面には擦れた跡と、かすかに血の染み。


「……マルクは最後まで抵抗したんだ。これが、俺たちへのメッセージだ。」


カズヤが歯車を光にかざすと、外では塔の鐘が午前を告げて鳴り始めた。

その音は、なぜか一回だけ、妙に遅れていた。



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