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【ランキング12位達成】 累計55万1千PV 運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『カズヤと魔族のおっさんの事件簿:オルゴールは死を奏でる』

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第4話 三重密室の謎

朝の光は白く淡く、雪の膜が屋敷の石畳を覆っていた。冷えた空気に触れると、呼吸は白い雲となり、すべての音が少しだけ遠ざかる。


カズヤは中庭を歩いた。クラウディアが倒れていた場所の周囲は、赤い染みだけが痛々しく残っている。だが、驚くべきことに、雪の上には誰の足跡もなかった。


「足跡がない……?」

レオンが呟く。震える声には、動揺が混じっている。


「昨夜のうちに誰かがここを歩いて、あえて足跡を消すことはできるが、今のところその痕跡は見つからない」

アイゼンハワードは冷静に視線を巡らせる。


エドゥアールが鍵束を差し出した。鉄のリングに通された鍵は、昨夜からそのままの状態だという。


「塔の扉は閉められ、鍵も私が預かっておりました。夜間、誰も塔に出入りしていないはずです」


塔の最上階に向かう螺旋階段には、血痕が点々と残されている。だが血痕は階段の一部に限られ、外に向かう足跡はない。塔の窓ははめ殺しで、外壁に登った形跡も見当たらない。


「塔の鐘は自動で鳴る。マルクが修理してから、手動で鳴らすことは構造上難しいはずだ」

マルク・ラグナスは重々しく言った。


カズヤは、机の上に転がる止まったオルゴールを手に取ってみる。ゼンマイは巻かれているが、内部には通常のオルゴールにない小さなフック状の加工が見える。


「オルゴールの演奏時間と鐘の鳴るタイミングがずれていたんだ。前夜、誰かがそのタイミングを意図的に操作したように思える」

カズヤは低く言った。


アイゼンハワードは頷くと、声を低めた。


「まとめると、三重の密室だ。

①塔の扉は施錠されていた。

②中庭は雪で覆われ足跡がない。

③鐘の仕組みは自動で、外部操作の痕跡はないはず。

だが事件は起きた。ならば、どこかに“仕掛け”があるはずだ」


二人は塔の機械室へと向かった。あの古い歯車の隙間に、何か“外からの干渉”の跡がないかを確かめるためだ。


考察(現場の異常点と初期仮説)

現場の主要な異常点

塔の扉は施錠されていた(執事の管理下)。

中庭は雪で覆われ足跡がない(遺体周辺も含む)。

鐘の仕組みは自動で鳴るはず(マルクが修復した)。

古いオルゴールの旋律が鳴り、曲と鐘のタイミングにズレがある。

塔の階段に断続的な血痕がある(移動の痕跡)。

被害者は頭部強打で即死、転落事故に見える。


これらの要素を踏まえ、いくつかの現実的な仮説を立てる必要がある。


仮説A:"転落に見せかけた殺害"(屋内で殺害→遺体を落下)

仮説B:"降雪が後で足跡を消した"

仮説C:"外壁からの登攀・降下"



カズヤは機械室の小さな歯車を指で触れ、冷たい金属の感触を確かめた。アイゼンハワードはその横で沈黙し、親族たちの表情を見ていた。


「時間を操る者は、同時に人の運命を弄ぶ者でもある」

と、アイゼンハワードは静かに呟いた。


塔の歯車はなおも回り、雪の静寂の中で、真実が少しずつ顔を出し始めていた。


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