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完結【50万9千PV突破 】運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『カズヤと魔族のおっさんの事件簿:オルゴールは死を奏でる』

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第3話 時計塔から落ちた者

夜の空気を裂く、短い悲鳴

カズヤとアイゼンハワードは顔を見合わせ、ほぼ同時に廊下を駆け出した。


中庭に出た瞬間、視界に飛び込んできたのは、月光に晒されたクラウディア・ヴェルネの横たわる姿だった。

額から後頭部にかけて赤黒い血が広がり、石畳に冷たく染み込んでいく。


「おばあさまっ!」

レオン・ヴェルネが駆け寄り、跪いた。

その声は震えていたが、驚きと動揺の色は妙に抑えられている。


「誰か! 医師を……いや、もう……」


「お下がりください、レオン様。」

メイド長フロランスが険しい顔で制した。

「頭部を強打しています。即死でしょう。」


塔を見上げれば、最上段の窓が開き、夜風が吹き込んでいる。

螺旋階段には血痕が点々と続いていた。


「足を滑らせたんだ。」

執事エドゥアールが、硬い声で言う。


「階段は昨夜の雨で濡れておりました。あの方は今夜、塔に用事があったのでしょう。」


「でも……おばあさま、は高い所を嫌っていたはずよ。」

イザベル・ヴェルネがかすれた声を漏らす。

「どうして塔に?」


「塔といえば、俺が修理した大時計しかないがな。」

マルク・ラグナスが眉をひそめる。

「今夜は作業をしていない。鍵も、屋敷の者しか……」


「0時の鐘の直前に、妙なことがありました。」

料理長ギヨームが、厨房帽を握りしめながら言った。

「古いオルゴールの音が聞こえたんです。あれは祖母様の宝物のはず……でも、いつもと違う。鐘が鳴る前に、曲が終わってしまった。」


カズヤがアイゼンハワードの方を見た。

「アルおじさん、やっぱり聞こえたよな?」


「ああ。」

アイゼンハワードはゆっくりと顎を撫でた。

「鐘と曲の時間がずれていた。そしてその直後に転落……。偶然と片付けるには、些か出来すぎている。」


「何が言いたいんです?」

レオンの声は険しかった。

「まさか、誰かが、おばあさまを」


「まだ何も決めつけてはいない。」

カズヤはレオンをまっすぐに見据えた。

「でも、事故のように見せかける方法は、いくつもあるんだ。」


沈黙の中、塔の奥で歯車のきしむ音が響いた。

それはまるで、この屋敷が長い眠りから目を覚まし、何かを語ろうとしているかのようだった。


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