【最終話】 選ばれる剣
漆黒の仮面が砕け落ちたとき、
それは一つの時代の終焉を意味した。
黒牙のヴォルゼア戦場に散る。
彼の死は、暗殺部隊【黒牙】の戦意を絶たせ、
傭兵団全体に激震を走らせた。
指揮系統を失い、魔術通信網も破壊されたリュドミラ傭兵団は、
まるで潮が引くように、戦場から崩れ去っていった。
かつて魔界を脅かした最強の傭兵団は、
ここに瓦解した。
燃え尽きた戦場の果て。
■■■
魔界の王・ダイ・マオウ
人間王国の三国代表元首たち
互いに武を携えたまま、だが剣は抜かず。
交渉の席には、数多の血と犠牲が注がれていた。
王の瞳が、静かに語る。
ダイ・マオウ「この手に握る剣は、民を護るためのもの……。だが、いつから我らは、それを振り回すことに慣れてしまったのか」
人間の王「……同じだ。我らも、恐れと猜疑に支配されすぎた」
魔人と人間。交わることはなかった世界。
だが今、対話の扉が開く。
ダイ・マオウが、剣を地に突き立てた。
「選べ、人の王よ《和平か、終焉か》」
そして、その手を差し出した。
人間王国代表その手を、強く握り返した。
「……未来を、共に築こう」
こうして、幾千年の戦乱を終わらせる歴史的合意
「第一魔人・人類和平協定」が結ばれた。
時は流れ。
焼け野原だった街に、再び歌声が戻る。
デトロイトメタルシティ。
かつて国境の近くの“死の都”と恐れられた場所は、今
“自由の街”と呼ばれるようになった。
瓦礫の上に新たな家が建ち、
市場が賑わい、子どもたちが走る。
さっちゃんは、新たな市長として、
村の民間魔人たちと手を取り合い、街を復興させていた。
ユキネの子孫・シラユキは魔法学校を、
ナンバ・グランドは新たな防衛軍を率いていた。
狼女・ウルウルの遠吠えが、
夕暮れの空に笑い声を混ぜて響く。
そして
アイゼンハワードは、魔剣を収めた。
戦いの記憶を胸に、彼が選んだのは
かつての戦火の地、デトロイトメタルシティにて。
「剣術学校・希望の門」を開き、
子どもたちに剣術を、そして“勇者の意味”を伝える日々。
鉄を鍛える音と、笑い声が交差する。
ある日、彼は弟子たちに囲まれて問われた。
「アイゼン先生、勇者って……なんですか?」
彼は、丘の上に立って
夕焼けの国境線を見つめながら、静かに言った。
「勇者とは何か、その問いに、わしは一生かけて答えるつもりじゃ」
「命を賭けてでも守りたいものがある者」
「間違いに気づいてもなお、前に進める者」
「そして、未来を“選び続ける”者のことじゃよ」
そう語る目は、どこまでも穏やかだった。
カメラは、夕暮れの空を映す。
そこに、剣を掲げる若き剣士たちのシルエット。
燃えるような空に向かって
彼らは叫ぶ。
「俺が! 私が! 次の勇者になる!!」
アイゼンハワードが微笑む。
風が吹く。
希望が吹く。
物語は、終わらない。
剣と正義の物語は未来へと、受け継がれていく。
『アイゼンハワード国境警備録 ― 偽勇者掃討戦』
ー完ー




