第14話 黒幕の牙 ―暗殺者ヴォルゼア登場
沈黙。
リュドミラ本邸の奥、黒曜石のように光を吸い込む広間。
吹き抜ける風もない、音の一つさえ存在しない不気味な空間。
突如、空気が震えた。
「……“間”が変わった」
そう呟いたのはアイゼンハワード。
次の瞬間、影が地面から“浮き上がる”ように形を成し、音もなく人影が現れた。
仮面。双刀。黒装束。殺意すら“静寂”を纏っている。
スティル:「……なんだ、この気配……!?」
ヴォルゼアは、ただそこに“立っていた”。
まるで今までずっと、そこにいたかのように。
アイゼンハワードが剣を抜く。
スティルも拳を握り、ノルドは詠唱を始めようとするが、
「やめろ、ノルド」
アイゼンハワードが制する。
「その男の前で、声を出すな。術は通らん」
ノルド「ッ……!」
その瞬間、周囲の空気が変わった。
声が吸い込まれ、魔力の流れが鈍り、風さえ止まる。
《静寂界》
すでに、結界内だった。
ヴォルゼア「……愚か者どもが、また希望を語るか」
その声は機械のように冷たく、感情の抑揚がまるでない。
スティル「お前が……黒幕か?」
ヴォルゼア「黒幕? 違うな。私は“秩序”を執行する者。
“選ばれし者”による統治。それだけが、世界を保つ」
ノルド「“選ばれし者”を、自分で勝手に決めてる奴が一番危ないのよ」
仮面の奥で、ヴォルゼアの瞳が一瞬だけ光る。
「お前は“選ばれぬ者”だ。よって、価値はない」
次の瞬間、影が“跳ねる”。
ヴォルゼアの身がブレたかと思った瞬間、スティルの目前に立っていた。
反応したスティルが拳を突き出すが拳は、すり抜ける。
「……っ!?」
まるで“煙”のように、ヴォルゼアの身体は実体を持たないように動く。
アイゼンハワード
「“影走”。あれは……ただの暗殺者じゃない」
二振りの湾曲刀が抜かれ、空間が揺れる。
刃の放つ圧は斬撃ではなく、“沈黙そのもの”だった。
スティル「効かねえ……! ツッコミすら効かねえやつ初めてや……!」
ヴォルゼア「私は主の前に戻る。
ゼフィル様の剣が、“選別”を果たすだろう」
そう言い残し、ヴォルゼアの姿が影の中に“溶ける”ように消えた。
ノルド「……っ、どこ行った!? 消えた!? いや……“いない”!?!」
アイゼンハワード、仮面の消えた空間を見つめながら、低く呟く。
「……あれは、“意志”のない刃。
だが……それだけに、最も厄介な」
スティル「…意志のない剣って……まさか……」
ノルド「いよいよ……真打ち登場ってわけね」
静寂が戻る。だが、空気は、先ほどよりもさらに重く、冷たかった。
闇が、深くなる。
そして、決戦の時は刻一刻と迫っていた。




