第13話 リュドミラ本邸・潜入
静寂だった。まるで嵐の目”の中心にいるかのような。
リュドミラ家・本邸。白金の石造り、整いすぎた庭、冷たく均整な空気。
アイゼンハワードは黒のフードを脱ぎ、静かに息を吐いた。
その背後には、スティ・ゴルザックが槍を担ぎ、ノルド・ミルカが長い脚を組み、さっちゃんがピリピリと魔力を帯びていた。
「……慎重に進めよ。ここは“管理された正義”の中心地だ」
アイゼンハワードの言葉に、皆が小さく頷く。
潜入の目的は、裏切りの弟子ゼフィル・カイン。
かつて“剣の道”を教えたあの少年は今、リュドミラ家の剣となり、戦場を操る。
そしてその背後にある、“勇者国家構想”。
民衆を洗脳し、適性ある者に「勇者認定」を与える。反逆者は処刑、従順な者は讃えられる
まさに「正義の独裁」。
アイゼンハワードはそれを、かつての戦争の終わりに否定したはずだった。
リュドミラ邸地下
音もなく現れたその影は、アイゼンハワードの動きに寸分違わず対応した。
金属と金属が火花を散らす。剣筋は鋭く、速く、そして美しい。
「……まさか、こんなに成長しているとはな。ゼフィル」
向かい合うのは、黒銀の剣を構える青年。冷たい瞳が微笑んだ。
「師匠こそ、なぜ“変わらない”のです?
時代は進んでいる。力なき者に“希望”などいらない」
剣が再び交差。まったく同じ構え、同じ間合い、同じ“型”
「貴様……我流の剣を、完全に模倣して……!」
「違う。私は“貴方を超える”ために、昇華させたのです。
あの日、私を拾ってくれたのは感謝しています……でも、
もう貴方は古いのです。正義を夢見る“老いぼれ”だ」
アイゼンハワードの顔に、一瞬だけ哀しみが走った。
「ゼフィル……それでも、わしはお前に夢を教えたつもりだった」
「だから捨てた。夢なんて、“現実”の敵には勝てませんよ」
ゼフィルの剣が大地を裂く。地面から魔力の槍が噴出する“昇槍陣”!
さっちゃんが横合いから呪符でそれを中和。
「あんた師匠のくせに、どんだけ弟子に恨まれてんのよ!?
つかこの子、性格曲がりすぎじゃね!?」
スティの槍が飛び、ノルドの魔弾が火線を描く。
ゼフィルは瞬間移動でそれを避け、奥へと撤退する。
アイゼンハワードは動かない。目を伏せ、かつての弟子の背中を見送る。
「……終わってなどおらん。剣は、何度でも向き合わねばならんのだ」
だがそのとき
魔力通信石から、焦げた声が響く。
「報告、魔界の国境の防壁、破壊されました!
傭兵団、続々と侵入開始! 全面戦争です!!」
議場に衝撃が走る。さっちゃんが絶叫する。
「ちょっ……あんたの弟子のせいでとんでもないことになってんだけど!?」
ノルドの目が冷たく光る。
「ここはもう撤退すべきね。前線に合流を」
アイゼンハワードは剣を握りなおす。
「いや。わしは……ここから、戦いを始める」
最終決戦・魔界国境線
暗黒の空に、魔力の爆発が咲く。
傭兵団がなだれ込み、魔界の村々が炎に包まれようとしていた。
しかしその中央で、一人の男が剣を掲げて立ち塞がる。
「名乗るまでもないが……名乗ろう。
《魔界最強の老剣士》アイゼンハワード・ベルデ・シュトラウス。
この剣、老いてなお、貴様らを止める!」
魔剣が宙を舞い、雷鳴が走る。老いた体に宿るは、歴戦の“本物”の剣技。
スティが横から突撃槍を突き立てる。
「アル様の隣に立てること、これ以上の誉れはない!」
ノルドの魔法陣が炸裂し、後方の傭兵たちを殲滅。
「敵は多い。ならば……効率的に、心を折るだけ」
さっちゃんが火球を空に放ち、口角を上げる。
「ババアなめんなコラー!! 勇者だろうがぶっ飛ばす!!」
そして、その時。
「……アル!」
遠方から、かつての教え子たちが駆け寄る。
かつての若き魔族戦士たち、老いた仲間たち、皆が剣を取っていた。
そして、人間界の中でも
「あれが“本物の勇者”か……!」
「俺たちは、偽者を見抜けなかった。償うなら、ここだ!」
一般市民の義勇兵たちが、国境線に現れ始める。
ラストバトルへ。国境警備隊たちの物語は、ついに終幕へ。




