第11話 地獄のカウンター作戦
魔界・東部辺境自治区
デトロイトメタルシティ
夜が明けきらぬ空に、赤黒い煙が立ちこめる。
魔界の空に、爆発音が絶え間なく響いていた。
《リュドミラ家》が雇った傭兵団は、魔導火砲と重装機兵を前線に配備し、村への直接攻撃を開始。
それに対し、アイゼンハワード率いる国境警備隊は
迎え撃つ準備を、完璧に整えていた。
ごぉおおん…!と、大地を割るような警報音。
村の地下にある避難壕から、最後の住民が誘導される。
アイゼンハワードは、村の広場にて《断罪ノ刃〈ギロティーナ〉》を肩に担ぎながら、眼下の戦場を冷ややかに見下ろしていた。
(……かつての戦争を思い出すな。わしの背後にはもう、誰も死なせぬぞ)
背後から、スティ・ゴルザックが巨槍を回しながら歩み寄る。
「合図をくれ、アル様。ヤツらまとめて吹き飛ばしてやらァ!」
その瞳には熱い闘志。幼き頃、命を救われた恩を胸に、今は戦友として立つ。
反対側からはノルド・ミルカが優雅に登場。
黒の戦装束に身を包み、魔道具の小箱を開く。
「前線指揮官の位置は特定済み。精神支配魔法も準備OK。
“心を折ってから焼く”って、最近の流行らしいわ」
さっちゃんは肩にちょこんと乗り、悪魔らしい不機嫌な笑顔で舌打ち。
「チッ…! 無差別砲撃しやがって、魔界ナメ腐ってんじゃないの?
ぶっ飛ばせ、アルおじ! 正当防衛って言っとけばなんとかなる!」
アイゼンハワードは静かに頷いた。
「よかろう。ならば、戦闘の開幕といこう。我ら魔族が、ただの“化け物”ではないことを教えてやろう」
【戦闘開幕】
敵陣前線。傭兵団、陣形展開中。
突如、地面が爆ぜる。
スティの【衝破術・双連穿陣】が地面を貫き、前衛部隊が吹き飛ぶ。
「おらァああああああああっ!! 地獄のノック、二連発ッ!!!」
まるで彗星のような突撃。魔力を纏った大槍が次々と敵兵を薙ぎ倒す。
前線が、わずか十秒で崩れる。
後衛にいた指揮官格が何かを叫ぼうとしたその瞬間――
「あら、おしゃべりは禁止よ?」
ノルドの【夢魔術・心蝕結界】が発動。
言葉が、意志が、思考さえも封じられ、敵司令部は一瞬で混乱へ。
「これで数分。アル、今よ」
さっちゃんが叫ぶ。
「カウンター、いってやんな!!」
アイゼンハワードが、一歩、前へと踏み出す。
その瞬間、魔剣《断罪ノ刃〈ギロティーナ〉》が黒雷を帯びる。
「……これぞ裁きの剣。貴様ら、"血で商売をする者"に与える裁断なりッ!」
【必殺魔剣術・終末断章】
七重の魔力刃が、空を裂き、地を割る。
傭兵団の魔導装甲ごと、戦線中央が一刀両断に消滅。
爆炎と悲鳴が轟く中、敵兵たちの戦意は崩壊寸前だった。
だがその時。
敵後方に、一際異質なオーラを纏った男が現れる。
背には、リュドミラ家の紋章を刻んだ外套。
銀髪、仮面。口元に笑みを浮かべるその男は、ただ一言。
「さすがは、“老害魔族”……やりおる」
その目は、明確にアイゼンハワードを“観察”していた。
アイゼンハワードの眉がピクリと動く。
「……あれが、《リュドミラ家》直属の密命将か。
顔を隠すのは、後ろ暗い連中の習性じゃろうが……」
さっちゃんが肩越しに耳打ちする。
「あいつ、“勇者学園”の理事にも名前あったわよ。リュドミラの汚れ仕事専門のエージェント。“スラヴァ・ドランベルク”ってやつ」
「ほう……次の標的、決まったようじゃな」
戦いの火蓋は切って落とされた。
この夜の戦いを境に、魔界と人間界の関係は、戦争の瀬戸際へと突き進むこととなる。




