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【ランキング12位達成】 累計53万7千PV運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『アイゼンハワード国境警備録 ― 偽勇者掃討戦』

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第9話 二つの正義、剣で語れ

夜の勇者学園 校長室から屋上へと移動した。


白い月が、石造りの屋上を照らしている。

“校長室に呼び出された転校生”アイゼンハワードは、無言でそこに立っていた。


風が吹くたび、彼の学ランの裾がひらりと舞う。

胸元には“学籍番号666”の刺繍。だが、その姿勢と眼差しは老練な剣士のそれだった。


反対側の扉が、きぃ、と静かに開いた。


現れたのは、白銀の聖剣を携えた男。

人間界の英雄、そして現在の学園長


ガレス・ランディール。


挿絵(By みてみん)


彼はゆっくりと歩み寄り、屋上の真ん中で立ち止まる。


「……アル。君が“転校生”として現れるとはな。老いぼれた魔族が学生服に袖を通すなど、茶番にも程がある。」


アイゼンハワードは、鼻で笑った。


「制服が似合っておろうが似合ってなかろうが、貴様に教育者の資格があると思う方が茶番じゃろう、ガレス。」


沈黙。

そして、一歩。


二人の間の空気が、変わった。


ガレスが剣を抜く。

刃は青銀に輝き、まるで夜空を裂く彗星のようだ。


聖剣アストレイア。正義の名を冠す刃だ。だが正義とは、数と制度によって決まる。我々の世代が、そう証明してきたはずだ。」


アイゼンハワードも、魔剣ギロティーナの柄に手をかける。

だが、彼の“魔剣”はもう砕け、折れ、柄と破片だけを包帯で巻いて携えていた。


彼は静かに、その柄を握る。


「ギロティーナよ。古き友よ。すまぬが、もう一度だけ、刃を振るわせてくれんかの。」


黒い魔力が、ぐぐぐと溢れ出す。“砕けた剣”が、闇の中で再構築されてゆく。


それはさっちゃんが修復した、再生の断罪剣。


「魔剣《断罪ノ刃〈ギロティーナ〉》、再起動じゃ。」


次の瞬間、両者が同時に地を蹴った。


衝突。


ギロティーナとアストレイアが激突し、空気が一瞬にして爆発する。


ガレスは、冷静に剣を弾きつつ、足技でアイゼンハワードの重心を狙う。


「“力”とは統制されねばならない! 君のような“感情”に任せた戦いは──!」


アイゼンハワードは、それを逆手に取り、あえて崩れた姿勢から斬り上げる。


「感情を否定した正義など、ただの冷血な合理主義じゃ!」


技名:黒牙裂閃デスファング・クロス


X字に交差する漆黒の斬撃が、夜空を引き裂く。


ガレスは咄嗟にバックステップ、聖剣を掲げる。


技名:聖封絶技ジャスティス・ドミナンス


光の十字架が展開し、斬撃を受け止める。


が防ぎきれなかった。


ガレスの肩に浅く切り傷が走る。血が一筋、制服を濡らす。


彼は顔をしかめたが、すぐに構え直す。


石畳の床に、血が一滴落ちた。


剣と剣が斬り結んだ数十合の末、二人は互いに息を荒げ、距離を取っていた。


アイゼンハワードの黒き魔剣《断罪ノ刃〈ギロティーナ〉》には、いくつもの細かなヒビが入り、ガレスの聖剣アストレイアにも、かつてないほどの剣圧の軌跡が刻まれている。


どちらが倒れてもおかしくない、紙一重の攻防。


だが


ガレスが、ふいに剣を下ろした。


彼の左肩には、深い斬撃痕。制服の布地が裂け、血が滲んでいる。

彼はその傷に手を当て、目を閉じる。しばしの沈黙。


やがて、ゆっくりと口を開いた。


「……やはり、君は斬れなかったか。いや、斬りたくなかったんだろうな。アル。」


アイゼンハワードは黙って剣を構えたまま、相手を見据えている。


「それとも、“対話”という幻想に、まだしがみついているのか?」


ガレスは、わずかに自嘲の笑みを浮かべた。


「君の甘さは、いつか多くの命を奪う。私は……もうそれを見たくないだけだ。」


「……だからこそ、君にだけは真実を教えておく。」


風が吹いた。


ガレスはポケットから一枚の布を取り出し、地面に落とす。

それは、深紅に金糸を織り込んだ《家紋》三つ首の蛇が絡み合う紋章。


「“リュドミラ家”。人間界三大貴族の一つにして、勇者ビジネスの資金源であり、裏でこの学園すら動かしている連中だ。」


アイゼンハワードの瞳が鋭く光る。


「ほう……とうとう名が出たか。貴族共め、相変わらず汚いのう。」


「ガレスよ。貴様は彼らの手先か? それとも……」


ガレスは静かに首を振った。


「私は……彼らを“監視”するために、この立場にいる。だが、それが本当に正しかったのか、今はもうわからない。」


彼は一歩、背を向けて歩き出す。


「君が動けば、世界は揺れる。だから私は最後まで、君を見届ける責任があると思っている。」


「だがアル……もし君が、“秩序”を壊そうとするなら次こそ、私は容赦なく斬る。」


その背に、アイゼンハワードは声をかけなかった。


ただ、落ちた家紋布を拾い、じっと見つめていた。


沈黙。

そして、月明かりだけが、残された。



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