第6話 勇者学園、恐怖の“青春バトルカリキュラム”
ギィィィ…ッ!
朝のチャイムが鳴る前、人間界の西部神聖勇者学園・第3校舎Cクラス。
教壇に立った担任教師が、腕組みをしたまま生徒たちを一瞥し、叫ぶように言った。
「今日から転校生が3名来るぞッ! 前に出ろォ!」
教室がどよめく。
「いっきに3人も!?」(他のクラスにふらないの?)
「え、しかもイケメン2人に美女1人じゃね?」
「なんか1人、年齢詐称してない? あの人……校長じゃないの?」
最初に前に出たのは、妙に貫禄ある“学ラン姿”の男。
深紅の瞳、真っ白な髪に保湿の効いた艶やかな肌。
だがその姿からただようのは、もはや人生3周目くらいの圧倒的中年感であった。
その男が、胸に手を当て、優雅に一礼する。
「……アル・シュトラウスと申します。転校生、らしい。ええ。17歳。趣味は……ええと、ハーブティーと、背中の湿布でございます」
クラス全員、真顔。
担任が小さくつぶやいた。
「……見た目のことには触れるな。命が惜しいならな」
続いて、教室の扉をくぐったのは
身の丈2メートルはある屈強な男子生徒。漆黒の学ランがギリギリで縫製に耐えている。
まるでその場にいるだけで、空気が重くなる。
だが本人は、極めて無口で朴訥とした態度で頭を下げた。
「スティル・ゴルザック……。よろしく」
ゴクリと誰かが唾を飲む音がした。
「怖ぇ……」
「いや、怖ぇけど……普通に鬼すぎない?」
「てかあの肩幅なに? スキルか?」
最後に現れたのは、艶やかな黒髪にナイトメア特有の紅い瞳を持つ少女。
完璧な仕草でスカートのプリーツを整え、品良く微笑んだ。
「ノルド・ミルカよ。皆さんと仲良くするつもりはないから、よろしく」
声は優しいが、内容は冷酷。
だが男子生徒たちはなぜか総崩れだった。
「こ、こえぇけど好き……!」
「クール系ヒロインすぎる…!」
「てかこの3人……全員、絶対何か裏があるだろ」
それもそのはず。
この3人、実際には――
・アイゼンハワード:元魔界貴族、471歳。
・スティ・ゴルザック:魔界警備隊隊長、オーガ族。
・ノルド・ミルカ:情報参謀官、夢魔。
勇者学園へ潜入捜査中の、正体不明(という設定)の魔族チームだった。
そして事件は昼休みに起きた。
「転校生! お前ら、実力見せてもらおうかァ!!」
突如現れる上級クラスの不良勇者グループ、通称《聖剣四天王》。
「学園のルールに従えよな。ここでは“強い奴が正義”だぜ」
「昼休みは自由決闘時間だ! 決闘、申し込むぜ! お前、白髪のジジ……じゃなくて“アル”!」
アイゼンハワードは紅茶を口にしかけていた。
ぷるぷると手を震わせながらカップを置く。
「なぜだ! なぜ昼休みに決闘が組まれておるのだ!? わしはただの転校生じゃぞ!!」
ノルドがため息をついて紅茶をかき混ぜる。
「この学園では、“お弁当”の代わりに“命のやり取り”が流行ってるらしいわ。もう腐ってるわね」
スティは槍(魔法制御済みの木製模造品)を手に、黙って前に出る。
「隊長、面倒なんで……俺がやっていいですか?」
アイゼンハワードが涙目で机をバンッと叩く。
「やめぬかスティ! わしの“潜学生”としての威厳が保てぬじゃろうが!! よいか、ここは平和裏に……なに? 決闘時間5分以内に倒さねば、昼食が没収……? なぜだあああ!!」
生徒全員が熱狂するなか、学ランに身を包んだ老貴族が、仕方なく立ち上がる。
「ふ……よかろう。貴様らの“青春”とやら、老いぼれが買い取ってやろうではないか」
ノルドがくすりと笑った。
「……こういうときだけ、やたらカッコつけるのよね、この人」
アイゼンハワード、学ランの背中に“保湿入り魔法マント”をひるがえして、決闘場へと歩み出る。
その眼差しは、17歳の若者には到底持ち得ない、“老獪なる哀愁”に満ちていた。




